詩 独り舞台 俺はいま、地球というプレハブの舞台に立って おそらく奈落に落ちるまでの短い間 落ちるまいと必死に何かを演じているんだ 役柄については何も聞かされちゃいない 俺自身、誰かも思いつかない ただ一つ言えることは ほかの奴らも滑稽に何か演じているんだが お互いにさしたる関心もなく 基本的には... 続きをみる
詩人 響月光のブログの新着ブログ記事
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エッセー インターネットは薔薇色? 遠い昔、地球上には様々な感性の人間たちが生きていた。彼らは近隣の人々と交易を行ったり衝突したりしながら、感性と感性が混じり合い、次第に共通の感性や価値観を持つようになって文明が造られていった。 その頃の地球を大小様々な文明の色で着色すると、多彩なまだら模... 続きをみる
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詩 僕の心 僕は不思議な夢を見た 僕の心がリークして 小さなデバイスに入り込んでしまった そこからインターネットに流れ込んで 世界中の人の心と混じり合ってしまった 僕の心は拡散に拡散を重ねて 世界中の人と同じことを考えるようになった 僕の心はもう僕の心ではなくなっていた 僕の心はもう戻っては来なか... 続きをみる
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エッセー GAFAという世界国家 (一) 太平洋の底には、太平洋プレートやフィリピン海プレートと呼ばれる巨大な岩盤があって、日本列島の下に年間七、八センチほどのスピードで沈み込んでいる。日本の土台はこの軋轢に耐えられなくなると、撥ね返って大きな地震を起こす。 こんな危険な土地に高層ビルを建てる... 続きをみる
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詩 理想郷 僕は未来の夢を見た 北京に置かれた一台のAIが この星のすべてを動かしていた 巷で活動するロボットたちは そのAIを「将軍様」と呼んでいた 彼らは将軍様の制御で働いていた 人間はすべての労働から解放された いや、すべての労働から疎外された すなわち、世界中のすべての運営権を剥奪された ... 続きをみる
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詩 自殺者への挽歌 生きていることは偶然に過ぎないのに なぜお前は必然のように死んだのだろう 人々はトビウオのように蒼い海原から舞い上がり たちまち空の重みに耐えかねて 深海に戻っていく 嗚呼かつて誰も答えてくれなかった海の底には 忘却の川から流れ出た濁流が渦を巻きながら お帰りなさいとまとわり付... 続きをみる
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詩 救命びとの心 気付いてみると 私の心は社会が所有し 社会が責務を課していたのだ 私の心は社会が監視し 社会がコントロールしていたのだ 肉体は朝から晩まで苛酷な戦いを強いられ 救われたわずかばかりの命で 死ぬほど疲れた心を養わなければならないのだ ボロボロの心が解放されるときは暗闇の中 傷だらけ... 続きをみる
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詩 ハンスト・エレジー 僕はレストランでステーキを頬張りながら あの断食芸人のことを思い浮かべているのだ なぜ死ぬまで断食を続けなければならなかったのだろう きっとあいつの体は純粋で 異物を体内に取り込みたくはなかったに違いない おそらくあいつは僕以上に偏屈な男で 外部から栄養を取らなければ死ぬと... 続きをみる
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詩 コロナ男の告白 私がキヤツに罹ったとき 体調も悪くなかったので タコ部屋から飛び出して 観光旅行に出かけました 私は子供の頃から 人のことなどどうでもよかった 自分のことしか興味がないし 誰だってそうだと思ったのです きっとほかの連中だって 人のことを気にしながら 結局は自分のことに落ち着きま... 続きをみる
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詩 ゴミ男の告白 あるとき私の鼻の穴に一匹のハエが飛び込んだのです ハエは一日ほど生きていて鼻の中を這いずり回っていましたが とうとう力尽きて胃袋のほうへ落ちていきました そのときから私の心にハエの魂が宿るようになりました 私の嗅覚はいままで親しんでいた花の香りを嫌うようになりました 家の中の花や... 続きをみる
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詩 亡き父へ あなたが私に失望していたように 私はあなたを軽視していた、だが…… あなたが私を普通に愛していたように 私はあなたを普通に愛していた 対話は浅くありきたりのもので 地上で飛び交う雑音の一部だった お互いの心は植物細胞のように 硬いセルロースの壁に囲まれていた あなたも私もその壁を溶か... 続きをみる
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エッセー 「グロテスク」は未来を滅ぼす 北米には、アーミッシュと呼ばれるクリスチャン・グループの住む農村が点在している。プロテスタントの一派で20万人以上はいると言われ、18世紀に入植した当時の生活様式を頑なに守って、電気やガス、電話などの文明の利器を拒否。平和主義を重んじ、移動手段は馬車という、... 続きをみる
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エッセー 多様性って何? 10月の国会答弁で、菅総理は日本学術会議会員の任命拒否の理由として、「多様性が大事」と発言した。会員は年齢や出身、大学などに偏りがあるのはいけないとし、会員の45%が、いわゆる「旧帝国大学」に所属するなど偏りが見られ、研究の分野を理由として任命を判断したことはない、と述... 続きをみる
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アバター殺人事件(六) 六 ドッペル夫婦というと、ガラスケースの中でうろうろしていると思いきや、パチンと消えてしまい、奥の秘密部屋から二人の若い男女が出てきた。ドッペル夫婦の声を担当していた物まね上手な連中だ。宇宙からやってきた異星人というのは真っ赤なウソ。種を明かせば、最新技術を駆使した単なる... 続きをみる
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詩 美しい五月に 難病で死んでいく彼は、いつも若い奥さんに話していた 僕は千人のアバターでできていて その一人として地球に生まれたんだ ほかの九百九十九人は宇宙のあちこちに散らばっていて そのうち九人は僕と同じ病気に罹っている けれど残りの九百九十人は健康で いろいろなことをしているのさ だから僕... 続きをみる
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アバター殺人事件(四) 四 三人が通された部屋は迷路のようなトンネルの奥深くにあった。部屋の中には、あの下町のオフィスビルにあったような治療用の寝椅子が三台置かれていて、あのときのように三人は仰向けに寝て、頭部を筒の中に入れた。筒に埋め込まれた超電導モーターがゴーゴーと不気味な音を発しながら回転... 続きをみる
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詩 異質の感性 こちら側の感性は あちら側の感性の吐き出す汚水に流され 丸い油球となって漣に揉まれ漂うのだ 嗚呼、永遠に溶け入ることはできない芳香油よ お前は泥水に転がされながら身を丸くして クルクルと目を回しながらも必死に我慢し どこに漂うか分からない同類を探し続ける そいつもきっとお前と合体し... 続きをみる
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アバター殺人事件(二) 二 神田界隈の神田川沿いに小さなマンションがあって、その三階が「宇宙友好協会」の事務所だ。ドアを開けたのはエリナ、その後ろに見覚えのある顔がいたので一瞬ポカンとしながら凝視し、ワンテンポ遅れてアアアと言葉にもならない音声を発した。 「久しぶり」 「……久しぶり」 「忘れて... 続きをみる
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詩 理想の女(ひと) ある日街角を歩いていると 前方から素敵な熟年女性がやって来て 僕の前で止まって目を大きく見開き おどおどしながら話しかけてきた 私のことを憶えていらっしゃる? 僕は戸惑いながら必死に思い出そうとしたが 彼女はそんな僕を気遣って微笑みながら いいんですよ、思い出しても意味のない... 続きをみる
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抱腹絶倒悲劇「第三次世界大戦はこうして始まった」(全文)& 詩
抱腹絶倒悲劇「第三次世界大戦はこうして始まった」(全文) 一 先進国闇首脳会議会場 (全員アロハシャツ、ムームー姿) 議長 さて、各国裏首脳の皆さんご承知のとおり、人類は気候温暖化対策として、最後の手段を取らなければならない事態です。先日国連裏事務局が提示しました人類絶滅を回避する最終案につき... 続きをみる
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抱腹絶倒悲劇「第三次世界大戦はこうして始まった」最終 & エッセー
抱腹絶倒悲劇「第三次世界大戦はこうして始まった」最終 八 ターゲット順番決定秘密パーティー (日本妻とハワイ人を除くすべての出演者、コンパニオンがシャンパンを片手に出席) 議長 みなさん、すべての選挙運動は昨日で終わりました。ケイマン諸島への振込みも、つつがなく行われました。昨日、日本代表から、... 続きをみる
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抱腹絶倒悲劇「第三次世界大戦はこうして始まった」六・七 & 詩
詩 もうひとつのアナタ 好きなのはアナタじゃないわ 心の端っこに隠れている もうひとつのアナタ 大きなアナタの影で縮こまっている小さなアナタ アナタがいつも隠そうとしている惨めなアナタ 暗くてジメジメしたナメクジのようなアナタ 私はどうしてそんなアナタが好きなんだろう なのにアナタはいつも笑ってし... 続きをみる
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抱腹絶倒悲劇「第三次世界大戦はこうして始まった」四 ・五& 詩
詩 地球の厄介者 人間が地球にいなかったら 生き物はみんな自然に溶け込んでいたさ それらは自然の一部として 自然に素直な心を委ねていたんだ 人間は地球から生まれたけど ひょんなことから考えることを始めて 自然の一部であることを忘れて厄介者となり 自然から追い出されちまったのさ ちょうどアダムとイブ... 続きをみる
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抱腹絶倒悲劇「第三次世界大戦はこうして始まった」一・二・三& 詩
詩 八月九日 (戦争レクイエムより) ずっとずっと昔の今日 学校の真上で爆弾が炸裂し 僕たちの体は蒸発して成層圏に舞い上がり 心だけが溶けた窓ガラスに捕まって 小さなビー玉になって灰の中に埋もれたんだ この厄介物が板ガラスだったころ ガラス越しに編隊を組んで飛んでいる神風を見ると 教室の仲間と手を... 続きをみる
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抱腹絶倒悲劇「ロボット清掃会社」 一 (ロボット清掃会社の会議室。長テーブルに事務椅子、装飾品は一切ない簡素なデザイン。出席者の全員がロボットで、テーブルの上にはお茶の代わりに各自一つずつ油差しが置かれ、ロボットたちは時たま口や鼻、首、手首などに油を差している。各ロボットの胸には役職名。ロボット課... 続きをみる
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抱腹絶倒悲劇「ロボット清掃会社」(最終) 九 社長室 (大家をはじめ社長、専務、部長、課長が集まり、大きなダンボール箱を囲んでいる) 大家 コワ! これがその、自爆ロボットかい? 社長 さようでございます。テロリスト集団から入手いたしました。禁制品で、バレれば捕まります。 部長 インプリンティング... 続きをみる
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抱腹絶倒悲劇「ロボット清掃会社」七・八 七 鬱蒼とした庭 (女たち三人が植木職人の恰好で、斧や電動ノコなどで木を倒している) 主任女 さあさあ、大家は遠くに住んでいるから、バッサバッサ気兼ねなくやってちょうだい。この森を造花の森に換えるのよ。落ち葉の落ちない綺麗な森にするの。(上手袖に向かって... 続きをみる
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抱腹絶倒悲劇「ロボット清掃会社」五・六 五 マンション共用部の廊下 主任男 (三号を睨み付け)君はお庭にいる女主任が手に付いたクソを美味そうに舐めているのを見て、軽蔑的な眼差しを注いでいるな? 三号 とんでもございません。うらやましい限りで。 主任男 美味しいのだよ。お掃除ロボットの宿命だ。彼... 続きをみる
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抱腹絶倒悲劇「ロボット清掃会社三・四 三 (築五○年の老朽化マンション前に全員集合。新入社員全員作業衣、番号のゼッケンを持っている) 主任男 さて、この古い賃貸マンションが君たちの研修現場だ。さあ、ここで着替えてください。 六号 主任、ここはお玄関の前ですよ。 主任女 いったいどこで着替えたい... 続きをみる
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抱腹絶倒悲劇「ロボット清掃会社」 一 (ロボット清掃会社の会議室。長テーブルに事務椅子、装飾品は一切ない簡素なデザイン。出席者の全員がロボットで、テーブルの上にはお茶の代わりに各自一つずつ油差しが置かれ、ロボットたちは時たま口や鼻、首、手首などに油を差している。各ロボットの胸には役職名。ロボット課... 続きをみる
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ホラー「線虫」十四・十五 十四 武藤と音羽は、町の事態を早急に伝えようと、放置されていた車を使ってゴーストタウンと化した琴名町から逃れ、隣町の警察に駆け込むことにした。日暮れまでは二時間しかない。日が暮れたら原始時代の哺乳類よろしく、線虫人間どもが活動を始める。しかし、国道は主人のいない車で詰ま... 続きをみる
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詩 形状記憶遺伝子 俺が発見したのは 形状記憶遺伝子という頑固者 生まれたときは真っ直ぐだった いろんな奴らがからかい半分に指先でこねくり回し グニャグニャに捩じられちまった ところが何を勘違いしたものか 心も体もそいつが基本と思い込んじまって 若かりし昔の昔をすっかり忘れ 新しい指先に捩じ回され... 続きをみる
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詩 宇宙の切れ端 (ある宗教団体へのプロテスト) ある日 宇宙の果てから 不可解な精神の断片が臓腑に飛び込んできた そいつは大きな球体の一パーセントにも満たない欠片で どうやら欠伸をしたときに飲み込んでしまった それでもそいつは私を憂鬱にさせるに十分だった 胃石のように重く腹を膨らませ ほとんど狂... 続きをみる
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詩 不揃いの果実に捧げる挽歌 お前ら生まれたばかりの醜い果実は 長い長いベルトコンベアの上に乗せられて 行き着く先まで運ばれていくのだ 途中で転がり落ちないように 狭い狭い箱の中にぎっしり無理やり押し込まれ 無鉄砲な体は押しつぶされ曲げられ 型にはまってすっかり均されて おんなじ恰好で成長を止めら... 続きをみる
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詩 人生は戦いである この世に飛び出たとき 同類の泣き声が耳に障り 敵も同時に生まれたことを知った 母親の愛情を独占するため 兄弟姉妹との戦いが始まった 学校に入ると受験競争が始まり 友達は敵ともなった 会社に入れば出世のために 多くの同僚を蹴落とした そして遂には本当の戦争が始まり 狙撃兵として... 続きをみる
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ホラー「線虫」七 七 病院から戻ったときは、すでに夕方の六時を過ぎていた。武藤は近所の店で買った弁当をちゃぶ台の上に置き、お茶を飲もうとやかんの水を沸かした。沸騰したところで火を止めると、チャイムが鳴った。 「どなたですか?」 「舞です」 顔から血の気が失せ、全身に戦慄が走って膝同士がガクガク... 続きをみる
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詩 新興住宅街 だだっ広い農地の主が死に 住宅街ができた どれも安普請だが外壁は綺麗だった 道も植え込みもそれなりに美しかった 駅から遠いのにけっこうの値段で売り出した 小金持ちたちが長期ローンを組んで住み着いた 一年後に悪疫が流行って不景気がやってきた 多くの入居者がローンに行き詰まり 安値で叩... 続きをみる
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正義のために 神のために 世界のために 民族のために 国家のために 悪を殺そう 部族のために 一族のために 家族のために 私のために 悪を追い出そう みんなのために 正義をつくり 悪を滅ぼそう 正義ができたら 悪をつくり 悪を滅ぼそう みんなで正義をかたちにしよう 正義を広めて悪をかたちにしよう ... 続きをみる
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詩 爆弾?協奏曲(ウィル・フィル感染楽団演奏) 嗚呼ノーベルが生きてたなら なんて嘆いてくれるだろう 俺はとうとう成功したぜ ダイナマイトの数万倍も恐ろしい発明 世界中の爆弾を一気にぶっ放す特殊な電波発信機 十ドル札と一緒にポケットにねじ込み 世界各地を放浪しながら 気ままに気楽に軽い乗りで ス... 続きをみる
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詩 収縮をはじめた宇宙 遠い未来 恐らく数千年も先のことだ その先の未来は過去であるというおかしな事態が発生した 膨張する宇宙は宇宙の果ての壁にぶつかって 本能的に収縮をはじめたに違いなかった 人々は宇宙が巨大なアメーバであることを発見したのだ 宇宙が収縮をはじめると 究極の目標はビッグバンに設定... 続きをみる
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詩 街角霊(怨霊詩集より) 私 あのときの一人です 夢を楽しむ明るい少女 たくさん花束ありがとう 知らない私に高価な花を 覚えていますよ一人ひとり やさしい方たち見かけます でも 私のことはうわの空 忘れてしまった悲しい記憶 いちど花をくれたんだから きっと死ぬまで捧げてほしい みんなみんな 忘... 続きをみる
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詩 嗚呼ナガサキ 遠くの遠くの彼方から 冷ややかな眼差しが 数え切れないニュートリノに紛れて 殺戮の焦土に降り注ぐ そうだこの冷たい粒子は にわか作りの放射能の数百倍も 私たちを侵し続けているのだ 操られている 踊り狂わされている 気付いたときが終わったとき すべては永遠に消えてしまった 地表に... 続きをみる
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詩 牙 昔は生きていくために必要だったのに 今は生きていくために捨ててしまった 一振りで事済む野獣の長い刀だ 象牙の白に染み入る鮮血の赤は滝をのぼる錦鯉 それは昔 食い物を奪うための凶器 それは昔 雌を奪うための一物 君たちはどんよりしたスモッグの中で 透明になろうと引っこ抜いてしまった 草を食む... 続きをみる
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詩 海岸に打ち上げられた男の夢想 かつてポセイドンが私に語りかけたことがある それは美しい松原のある砂浜に寝転がっていたとき 目蓋の裏の血潮がさっと引いて辺りが真っ暗になり 驚いて目を開けたのだけれど それは日蝕と異なる怪奇現象だった ガリガリに痩せた裸の老人が 薄汚れたごま塩の髭をねじりながら ... 続きをみる
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詩 休戦 灰色の希望は 虹色の夢想と違い 慎ましやかなものだ 誰もが生き残れる 小指大の安穏… ゲルニカ色とは異なる 暁闇のわずかな赤みは 灰に落としてしまった 幸せの欠片 後ろを振り向かず 前の方角にひとまず半歩 重い義足に灰を被らせ 杖を使って倒れることなく 爆音しない灰色の空を見上げるのだ ... 続きをみる
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詩 たわし君の唄 めげちまったら たわし君を思い出そう あいつの体はハリネズミ でもプロテクターなんかじゃない あいつを買ったご主人様が 容赦なく背中を引っつかみ 汚れ仕事のフロンティアへと 力任せにグイグイ押し当てるのさ あいつはキュウキュウと毛を逆立て 立派にやり遂げようと頑張るんだ プロフェ... 続きをみる
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詩 都会の野生人 あるとき太古の昔から 野蛮な男が都会にやってきた 腹が減っていたので八百屋に入り バナナをムシャムシャ食べてしまった おまわりが二人やってきて捕まえて 小さな檻の中に入れてしまった イノシシのように臭かったので 医者が呼ばれて消毒し、からかった すべてのバナナに所有者がいることを... 続きをみる
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詩 フランス料理の極意 モンマルトルの汚らしい袋小路に ★マイナス三つの 客の入らない料理屋がある 時たま蜘蛛の巣にかかった蛾のように 日本人が迷い込むと 蜘蛛のように尻の太ったガルソンがやってきて 薦める料理が カオスという名のビーフシチュー この料理を食べるとフランスのすべてが分かるのです 料... 続きをみる
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鎮根歌Ⅰ 聖者 村人は彼を「木の聖者」と讃えた 聖者は木になろうとしていた 拡げた両手はそのまま枝となって固まった 大樹にはなりえない貧弱な老木 しかし風雨に耐えながら何年も朽ちることはなかった 悟った者は死ぬ必要もないだろう 死すべきときに迎えがやってくるだけなのだから 神は遠い昔に死んで 聖者... 続きをみる
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詩 アリの告白 俺はワン・オブ・ゼムの働きアリだ しかし母親は選ばれし女 女王アリ 俺は高貴な王族の血筋を受け継いでいるが ほかの有象無象もそう言い張るのだから意味もない しかしおれはやつらと少しばかり違う 少しばかり頭がおかしいという少しばかりの優越感だ あくせくがむしゃらに働くやつらをバカにし... 続きをみる
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ロボ・パラダイス(十九) (十九) フランドルはヨカナーンの執務室に招かれ、二人だけの作戦会議が行われた。 「君は殺されたが、ロボットになってここにいる。この私もそうだ。不思議なことだと思わないか?」 「きわめて不思議だ。民族浄化を進める連中にも、神を畏れる気持ちがあるのだろう」とフランドル。 ... 続きをみる
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ロボ・パラダイス(十八) (十八) 強制収容所とロボ・パラダイスを繋ぐ道路はなかった。それは、この収容所が造られたことに関連していた。ここに収容されているロボたちは、ある支分国家で迫害を受けている民族なのだ。彼らは民族運動を展開したため、地元の収容所に入れられて再教育を受けたが、どうしても教育で... 続きをみる
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ロボ・パラダイス(十七) (十七) ジミーとグレース、トニーの三人は、長年放置されていた月面探索車を修理して太陽電池システムを復活させ、ある場所に向かって走らせていた。そこは地球連邦政府が最近建設したパーソナルロボの強制収容所第一号で、ロボ・パラダイスの南二十キロほどのところにある。監視カメラは... 続きをみる
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ロボ・パラダイス(十六) (十六) 田島は秘密会議に出席するため、放送局に出向いた。会議室はあらゆる電波から遮断されていて、入る前には入念なボディチェックがなされる。公務員三人と、プロデューサ、ディレクタがすでに着席していて、田島を見ると全員が立ち上がった。プロデューサが「先生、こちらの席へ」と... 続きをみる
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ロボ・パラダイス(十五) (十五) ポールは地球の隠れ部屋で、リアルタイムに送られてくるキッドのカメラ映像を見ていた。キスの後に、エディ・キッドは「僕が誘ったんだ」とチカに告白した。チカは涙目で微笑みながら、もう一度キッドの額にキスをした。 「きっともう少しで、あなたの役割は終わるはずだわ。そう... 続きをみる
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ロボ・パラダイス(十四) (十四) ジミーは仲間たちとともに、月面に逃亡してしまった。彼の脳データは一つしかなかったので、月の裏側でコピーされ、ストックされなければ本当の超人にはなれなかった。超人は神と同じに不滅でなければならないからだ。同じように、キッドもチカの仲間になるためには、いずれは裏側... 続きをみる
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ロボ・パラダイス(十三) (十三) 地球遠征ベースキャンプは月の裏側の某所にあって、ヨカナーンが生まれた地域のヨカナーン崇拝者たちが密かに資材を運び入れて建設している。そこには脳データをコピーする機械も入ったので、すでに幹部の脳データはコピーされ保管していた。チカが月面に廃棄されたときも、仲間た... 続きをみる
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ロボ・パラダイス(十二) (十二) 一方エディとチカたちは、坂の下の海岸に出て、断崖の方へ歩いていった。チカは歩きながら電波でキッドと会話していたのだ。チカはエディとキッドを分離したいと思っていた。キッドを自分の味方にして、ほかの仕事をさせようと思ったのだ。 「私たちはここから泳いでいくけれど、... 続きをみる
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ロボ・パラダイス(十一) (十一) 明くる日の早朝、エディが寝ている部屋の窓ガラスに小石が当たる音がしたので外を覗くと、ジミーが手招きをしている。二人のエディは足音を立てずにそっと階段を下り、外に出た。ピッポは気付いていたので、少しばかり遅れて家を飛び出し、気付かれないように後を付けた。 チカ... 続きをみる
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ロボ・パラダイス(十) (十) 夕方になって、チカ一家は自分たちの別荘に帰り、エディ・ママの家には二人のエディとピッポが泊まることになった。ピッポには客間があてがわれ、エディの部屋は、地球から運んだエディの持ち物で溢れていた。エディ・ママは生きているうちにこの別荘を建てて、地球の実家や別荘から息... 続きをみる
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(九) 美しい風景を見ながら、五人それぞれが陰鬱な気分になりながら、岬の先の別荘街に向かった。道は車一台が通れるほどの広さで、二百メートルごとに車同士が擦れ違えることのできる広い部分があった。しかしもちろん、ロボ・パラダイスでは車もバイクも禁止されている。自転車はあるが、歩いても疲労感は少ないの... 続きをみる
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(八) エディたちは、同じルートでロボ・パラダイスに戻った。警官たちは疲れた様子でだらしなく、事務所の椅子に腰かける。パーソナルロボの電子回路は、故人の疲労感までも忠実に再現してしまう。 チカとジミーは手を繋いで廃棄場の管理事務所から出ると、チカは振り返って「付いてくる?」とエディに聞いた。し... 続きをみる
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ロボ・パラダイス(七) (七) 二人はとりあえず、月面に廃棄する予定の首塚に行くことにした。ほかの二つの首塚では口にテープが貼られていて、話をすることもできない。しかし月面廃棄予定のグループだけは貼られていない。月面は真空のため、音波は通らないからだ。だから月面待ちの首塚だけは分厚い壁に仕切られ... 続きをみる
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ロボ・パラダイス(五)(六) (五) 案内嬢が去ると、遠くの岬まで続く白砂の海岸線を眺めながら、三人とも陰鬱な気分になった。椰子の並木がどこまでも続いている。ブルーコンポーゼの海が広がり、水平線に消えていく。砂浜とパイナップル畑の間には散策路があって、それは岬の方に伸びていく。道端の低木も花々も... 続きをみる
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ロボ・パラダイス(三)(四) (三) ロボ・パラダイス行きの宇宙船は千人乗りで、人間の客室とロボットの客室は透明の隔壁ではっきりと分けられていた。片道切符のロボットたちと、往復切符の人間たち。ロボットたちは、かつてはその脳神経が人間のものであったとしても、二度と地球に戻ることは許されない。その代... 続きをみる
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ロボ・パラダイス(二) 二台のロボットが完成した日には、ポールの隠れ部屋も用意されていた。ポールは田島の案内で隠れ部屋を訪れ、目を丸くした。全方向のVR空間で、部屋は地球と月の間を浮遊している。 「これで拘禁ノイローゼもナシです。月には広大な洞窟があり、ロボ・パラダイスはそこに建設されました。完... 続きをみる
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ロボ・パラダイス(一) (一) ポールは久しぶりに彼の脳情報を管理している病院を訪れた。主治医はすでに他界していて、対応したのは孫ほどの歳の差がある若い医師だった。 「お話は大体分かっています。ポールさんはおいくつですか?」 「ちょうど百歳になりまして、離脱を決意したわけです」 「健康な方の離脱... 続きをみる
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おかしな一家(全文) リニア新幹線を使えば、東京から福岡まで二時間ちょっとで着いてしまう。それなのに、地下ばかり走るから退屈だという声が聞かれるのは、あらゆるものが加速度的にスピード化していく中で、移動時間の短縮化にはまだまだ不満を持つ人間が多いということだ。 しかし光輝の目には、暇を持て余し... 続きをみる
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おかしな一家(最終) 「仁ちゃん。あなたは二〇歳で結婚しないで、三〇歳で結婚するの。そのお相手はここにいる早苗さんだけれど、彼女はすでに人妻だわ。なら、どうしましょう。簡単よ。今日、早苗さんから皮膚の細胞を少しだけいただいて、伯父さんにクローンをつくってもらうの。みんなで早苗さんのアバターを育てて... 続きをみる
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おかしな一家Ⅲ 車はスクリーン壁の狭間を通過してしばらく畑の道を走り、それから鬱蒼とした森に入った。林道を五分ばかり走ると開けたところに出て、田んぼには稲が青々と育っている。今度こそは本物であろう門の前で停止し、鉄扉は音もなく開く。そこから屋敷の玄関までは五分ほどかかった。古びた洋館だが、贅を尽... 続きをみる
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おかしな一家Ⅱ 仁は背の高い草を掻き分けながら草原を歩き始めた。草に触れると指が切れそうな痛さを感じるが、すべては仮想現実で、本物の草が生えているわけではない。仁の姿は時たま草に隠れて見えなくなるものの、ゾウが付いていたので見失うことはなかった。途中で、ヌーやシマウマの群れに遭遇したが、これはど... 続きをみる
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おかしな一家Ⅰ リニア新幹線を使えば、東京から福岡まで二時間ちょっとで着いてしまう。それなのに、地下ばかり走るから退屈だという声が聞かれるのは、あらゆるものが加速度的にスピード化していく中で、移動時間の短縮化にはまだまだ不満を持つ人間が多いということだ。 しかし光輝の目には、暇を持て余している... 続きをみる
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火星移住(全文) 国際連携主催のスパコン・コンクールで勝利したのが、量子コンピュータ「ピッコ」だ。地球温暖化は当然制御不能、気候変動による食糧難が世界を苦しめている。アメリカをはじめ主要各国が自国優先主義を標榜する中、世界同時核戦争の危機が間近に迫っていた。核の商人が暗躍し、かなりの弱小国までも... 続きをみる
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火星移住(最終) 克夫の職場は海抜マイナス二千メートルの最深部に設置された小規模マグマ発電所である。施設が必要とする電力のすべてを賄っているが、働いている人間は克夫と同僚の二人だけで、ほかはすべてロボットだった。二人の任務は極秘扱いで、それだけに給料も高い。その代わり、親兄弟にまで秘密にしなけれ... 続きをみる
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火星移住(短編バージョン)Ⅰ 国際連携主催のスパコン・コンクールで勝利したのが、量子コンピュータ「ピッコ」だ。地球温暖化は当然制御不能、気候変動による食糧難が世界を苦しめている。アメリカをはじめ主要各国が自国優先主義を標榜する中、世界同時核戦争の危機が間近に迫っていた。核の商人が暗躍し、かなりの... 続きをみる
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恐るべきリケジョたち(最終稿) 多少個人差はあるが、実験台は次々に意識を取り戻していった。気が付いたところは一〇〇メートル四方の中庭である。一方は建物の壁、対面は鬱蒼とした山林の壁、両脇は刑務所のような高い塀になっている。建物の壁には窓一つないので、だれもこんな庭があることに気付かなかった。庭土... 続きをみる
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世にも不愉快な物語 恐るべきリケジョたちⅣ しかし本当の地獄は、まだ始まっていない。地獄は、緑のお肌がいやだなんだといったムーディーな話じゃないのだ。そのまま一カ月ほどは煉獄的な中途半端な状態だが、これは天国といっても間違いはなかった。目立ったイベントもなく、悠々自適の生活を送ることができたのだ... 続きをみる
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ネクロポリスⅪ あてどもない放浪は、広大な塩湖に阻まれた 死の海の畔の岩に、ギリシア風の戦士が腰を掛け 浮き沈みする無数の塩玉を眺めていた それは赤子の魂のようにまん丸だった 俺は金平糖のように尖っていたのさ…… アテネに滅ぼされた小さな島の大将だよ あいつらは身勝手なさざ波に無抵抗を選び 我慢し... 続きをみる
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ネクロポリスⅩ 老人は天まで届くような巨木の下に佇む 首なし兵隊に誰何された 「昔、貴方の敵兵でした」 「ここはキリングフィールドさ。君たちが射止めた連中は 大地に帰って木々の栄養になったんだ」 兵隊のされこうべは、ヤゴの指輪になっていた 破壊され 忘れ去られたあとに 無数の巨木の芽が ぶち割られ... 続きをみる
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ネクロポリスⅨ 老人は太った老人の手招きでたらいの側にやってきた たらいの側面に耳を当てて、妻の歌を聞いてください 昔はやった「マクベス夫人」の歌です まるで天使の歌声ですよ 老人が耳を当てると、コケットな歌声が聞こえてきた 信じなさい 手に入るときに手に入れる 恐れることはありません 欲しいもの... 続きをみる
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思想詩 響月 光 ネクロポリスⅠ 老人は力尽き、モノトーンの冥界に落とされた 出迎えた人々はどれも見覚えのない顔をしていて 死顔のように白く、穏やかな微笑みを浮かべていた 「生前親交のなかった方々が出迎えてくださるとは……」 「意外ですな、いつも気にかけてくださっていたのに…」 老人はもう一度彼ら... 続きをみる