詩人 響月光のブログ

詩人響月光の詩と小説を紹介します。

抱腹絶倒悲劇「ロボット清掃会社」七・八 & 詩

抱腹絶倒悲劇「ロボット清掃会社」七・八
七 鬱蒼とした庭


  (女たち三人が植木職人の恰好で、斧や電動ノコなどで木を倒している)


主任女 さあさあ、大家は遠くに住んでいるから、バッサバッサ気兼ねなくやってちょうだい。この森を造花の森に換えるのよ。落ち葉の落ちない綺麗な森にするの。(上手袖に向かって)アッ造園家の先生、こっち、こっち。 
(ルバシカを羽織り、頭にベレー帽のロボット造園家が上手から舞台前面に登場。引き続き、同じ恰好の女三人が登場。女たちは大量のプラゴミを積んだカートを押している)
   どうです先生。ごみ置き場の裏に、ルール違反のゴミがたくさんあったでしょう。これを処分するにはお金がかかるから、先生のアイデアでなんとかよろしくお願いします。
造園家 おまかせください。このプラゴミたちはアートの貴重な材料です。
主任女 十号、十一号、十二号、あんたたちは造園家先生の助手として、思う存分その芸術的な才能を発揮してください。先生、このオバサンたちにビシビシ命令して、大家さんがビックリするような美しいお庭を造っていただければ。
造園家 分かりました。私はロボット造園家の名誉にかけて、大家の喜ぶお庭を造ります。主任さんのご要望は、居住者が不法に投棄したプラゴミが素材に利用できないかということでしたので、こんな芸術を作ってみました。
  
   (スクリーンにペットボトルを縛って積み上げた木の幹や、ペットボトルを切って作った大輪の花、黒ビニールを切った棕櫚の葉など、プラゴミを駆使したアートが映る)


主任女 すばらしい! 天才ですわ。あの汚らしいゴミが、こんな美しい植物になるなんて、信じられない。ねえみんな?
十号 ひょっとして、このお庭にゴミでも飾るんですか?
十一号 そりゃないでしょ。造花だなんて、ゴミはゴミでしょ!
主任女 なんてこと言うの。昔はゴミだったけど、いまじゃ立派なアートだわ。昔はアバズレ、尻軽だったあなたが、いまじゃ改心してきれいな心で天に召されていくようなものよ。
十一号 あら、よく私のこと知っているわね。
主任女 ビッグ・データに基づいて喋ったまで、です。
造園家 まあまあまあ、芸術が理解できなくても構いません。芸術家の多くが理解されずに苦しむことは間々あります。要は大家さんさえ喜んでくれればいいのです。聞くところによりますと、大家さんは某芸術大学を末席で卒業なさったとのこと。私と同じ芸術的センスの持ち主です。
主任女 末席ですか? 主席の間違いでしょ。
造園家 いいえ、末席です。セザンヌが主席ですか? ゴッホが主席ですか? みんな、みんな末席の人生を歩みました。
十二号 私も某芸術大学を末席で卒業しましたが、これは芸術には見えません。これはゴミです。どう見てもゴミです。しかも、人間を不愉快にする臭い臭いゴミです。あなたはまるで、小便器を芸術作品だと言い張る、デュシャンとかいう頭のおかしなアーティストと変わりません。
造園家 あら、すっかり忘れてたわ。(下手袖に向かって)ハーイ男性諸君、庭石を持ってきて。


  (三人の男性高齢者が、リアカーに小便器を山積みして登場)


三号 先生、敷地内に不法投棄されていた汚い小便器をお持ちしました。おそらく悪徳業者が始末に困って物件の敷地に捨てたものに違いありません。
造園家 ありがとう。こんな貴重なものを捨てるなんて、人間って本当にセンスのない動物ね。これを十個くらい水時計みたいに階段状に重ねて、上から水を流せば噴水ができるのよ。タイトルは『泉』。
四号 (小便小僧の像を抱えて上手から登場し)先生、こんなものも敷地に落ちていました。
造園家 すばらしい。その小便小僧を一番上に置いて水を流せば、最高だわ。
主任女 やりましたね、先生。こんな芸術の森を造ったら、ツイッターで評判になって、外部から不法に侵入する者も出てきません?
造園家 それは必要悪ですわ。こんな芸術的な庭があるんだから、誰だって入居したくなるでしょ。いまは老朽化でガラガラなんだから、きっと大家さんも大喜び。それに、入園料を取ることだって可能よ。ひょっとしたら、ここにいる全員に金一封が出るかも知れないわ。
(全員が喜び、はしゃぐ)
主任女 さあ、みんな。先生の指示に従って、山積みのゴミを芸術作品に仕上げるのよ。
  (木を切り倒した女たちまで加わり、造花作りが始まる)




(社長、専務、部長、大家が上手から登場。舞台奥は紗幕で隠されている)


大家 いやあ、正直あの庭は悩みの種でね。植木屋を頼むと、ばく大な金がかかるし、一時は駐車場にしようと思ったけれど、ここの居住者は誰一人車を持っとらん。
社長 そこで私どもは、大家様のその悩みを一気に解決しようと、著名な造園アーティストを招き、子飼いの植木職人を総動員させて、荒れ果てたお庭を芸術のお庭に変身させたわけです。
大家 しかし君、本当に?
専務 本当に、お代は一銭もいただきませんです。
大家 しかしどうして?
部長 大家様には、いつもいつもお目をかけていただいておりますので、ほんの感謝の気持ちとして、お受け取りいただければと……。
大家 しかし、植木を買うにしても金はかかるで。
社長 いえいえ、大家様が気に入っていただけるなら、多少の出費など、屁みたいなものでございます。 
大家 それは楽しみだな。どんな庭ができたのかな。兼六園のようなやつかな、後楽園のようなやつかな。
部長 百聞は一見にしかず。さあ、大名気分になったおつもりで、日本最高のお庭、「芸術の庭」をご堪能ください。


 (紗幕が上がり、プラゴミの森が現出。横には小便器で作った小便小僧の滝に水が流れている。その前に主任女、造園家、女たちがかしこまって並んでいる)


大家 ななななな! なんじゃこれは。ゴミの山じゃねえか! これが六義園だと? 偕楽園だと?
造園家 いえいえ、これは現代アートの最先端を走る私の最高傑作であるお庭。題して「ゴミの園」でございます。


  (社長、専務、部長は手を叩き)


社長 先生、これはすばらしいお庭ですな。
専務 先生の芸術性に感服いたしました。
大家 これがすばらしい? 芸術だと。あんたら本気で言ってるのか? これは単なるゴミの山だろ! しかも臭い!
造園家 失礼な。これは芸術です。高名な私が言うんだから、間違いありません。
大家 (女性たちを指差し)あんたら人間も、ロボットどもの言うように、これは芸術だと思うかね?
十号 芸術ですわ。
十一号 芸術です。
十二号 すばらしい芸術です。
大家 ちくしょう、どうでもいい。芸術か芸術じゃないかなんてどうでもいい。大家の俺が気に入るか、気に入らないかの問題だ。気に入らない。俺にはゴミにしか見えない。大家が気に入らないんだから、こんな森は早々に撤去しろ。撤去だ。今日中に撤去だ。それから、お庭を元通りに修復しろ!
社長 それはご無理です。切った木を元通りにすることはできません。
大家 それじゃあ金だ。賠償金だ。一億円で許してやる。
社長 いや、そんな金払えません。無理難題を押し付けられたら、裁判ということになりますよ。
大家 ああ、裁判でも何でも受けて立とう。俺のマンションを台無しにしてくれたんだ。絶対に一億円はもぎ取ってやる!


 (ロボット美術評論家が偶然通る)


評論家 ヤッ! なんてすばらしい庭園なんだ。いったい誰がこんなすばらしい作品を造ったんだ。これを造った芸術家は、たぶん天才だな。
大家 あなたは?
評論家 通りすがりの、高名な美術評論家です。
大家 このゴミの山のどこに、美的価値があるっていうんです?
評論家 じゃあ聞きますが、石ころばかりの枯山水のどこに、美的価値があるんです?
大家 あれはだって、みんなが美しいって言うじゃない。
評論家 みんながほめれば、芸術ですか?
大家 ほめなければ、誰も買わないでしょう。
評論家 値段が付かなければ、芸術ではないんですか?
大家 だれも買わなければ、画廊は潰れるでしょ!
評論家 チェッ、話にもならん。(造園家に目を向け)ややや! あなたはかの有名な!
造園家 はい。
評論家 かの有名なお騒がせ芸術家のパンクチーじゃございませんか。
造園家 (わらって)ばれましたか。
社長 この方が?
専務 この方が?
社長、専務、大家 この方が!
社長、専務、大家 で、パンクチーってなんなの?
評論家 ええい、みなの者控えおろう! このお方をどなたと心得る。かの世界的に有名な廃プラ芸術家、パンクチー様であらせられるぞ!
大家 といいますと、この庭は?
社長 おいくら?
評論家 また値段ですか。美術館に売れば、少なく見積もっても五十億は固いでしょうな。
大家 ごごごご、五十億! (気絶するが、すぐに起き上がり)いや絶対売らん。ここを美術館にして、入場料で稼ぐんだ。
社長 その運営は当社にお任せください。
大家 腐れ縁だ、仕方ない。ぼったら、ほかの会社にするぞ!


(突然の突風で、風に煽られた作品群がどんどん飛んでいく)


大家 アアア、札束が飛んでいく! (小便器の噴水が倒れて大家は小さな小便小僧の下敷きになって倒れ、顔に小便を浴びている)
部長 (大家を無視し、女たちに)お前ら何をやってる! 札束を追っかけろ! (女たちは一旦消えるがすぐにもどってくる)
十号 だめでした。作品のすべてが川に落ちて、流されちゃいました。
専務 なんで川に飛び込んで救い出さないんだ!
十一号 おぼれちゃいますよ!
造園家 これは私の設計ミスではなく、あんたの会社の施行ミスですわ。
社長 先生、どうかもう一度作っていただけませんでしょうかねえ。
評論家 あなた、この作品には五十億の値段が付いたんですよ。
専務 タダって話でしょ?
造園家 最初の作品はタダでしたが、評論家先生が五十億の価値があるとおっしゃいました。よござんす。三十億でお引き受けいたしましょう。
大家 (驚いて、小便小僧を撥ね退けて立ち上がり)ゴミならどんどん持ってきますから、十万円でどうでしょう。
造園家 この私の作品が十万ですって?
評論家 (わらって)世界的な芸術家の作品が十万だなんて、あんたらアホか!


 (造園家と評論家は腕を組んで退場)


大家 どうしてくれるんだ! あんたの会社の施行ミスがこんな損失を招いたんだ。この落とし前をどう付けてくれるんだ!
社長 (大家に接近し、耳打ちする)かねてからご要望の老朽マンション解体の件ですが、費用はゼロということに。
大家 (ニタリとして)サービスかい?
社長 サービスです。(社長と大家は握手をして大家は退場。社長は女たちを手招きして整列させ、威厳を持って宣言する)
   お前ら、全員クビだ!
  (女たちは悲鳴を上げて散逸する)


(つづく)
*「パンクチー」は、パンク(つまらない物)とパクチー(カメムシ草)の合成語で、固有の人物を示したものではありません。





精神とは


精神とはなにか
天才の精神
教祖の精神
凡夫の精神
認知症の精神
イヌの精神 イルカの精神
虫けらの精神 植物の精神
発達を断念した世俗の精神
人工知能の精神 ロボットの精神
精神は地球の基本になりえるのか
精神は人類の進化に寄与するのか
精神はこの世を支配する核なのか
精神とは 思考する心とは
単なる基準に過ぎないのか
我欲のフリルに過ぎないのか
否 精神とは単なる現象
いずれは消え行く脳内パルス
変わりはしない自然の円環



根無し草たちへ
(戦争レクイエムより)


君たちの土地は消えてしまったのだ
まるで溶岩のように
帰化植物たちが流れ込んできて
君たちはかろうじて押し流され
気が付いたら根のない草のように
波間に浮き沈みしながら漂っていた
君たちは気付かされただろう
溶岩は素早く固まり
かたくなにへばり付くことを
そして土地という土地は
頑固な自己主張者たちが
心のよすがを手放すまいと
皮膚を溶かしながら
油っぽい体液を土に滲み込ませ
瘡蓋のように覆い尽くし
やがては大地の一部として
きれいに一体化してしまうことを
君たちは薄々気付いているだろう
こうなってしまったら
助ける者など誰もいないことを…




響月 光(きょうげつ こう)
詩人。小熊秀雄の「真実を語るに技術はいらない」、「りっぱとは下手な詩を書くことだ」等の言葉に触発され、詩を書き始める。私的な内容を極力避け、表現や技巧、雰囲気等に囚われない思想のある無骨な詩を追求している。現在、世界平和への願いを込めた詩集『戦争レクイエム』をライフワークとして執筆中。


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「マリリンピッグ」(幻冬舎)
定価(本体一一○○円+税)
電子書籍も発売中


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