詩人 響月光のブログ

詩人響月光の詩と小説を紹介します。

ネクロポリスⅢ

老人は小川に行く手を遮られた
幼い姉妹が川底から瀬戸物の欠けらを拾っている
老人を見ると灰白い顔でニコリとした
「みんな欠けてしまったんです」
「弟の茶碗を探しているのよ」
「弟さんは?」
「母さんだって父さんだって、どこにいるか分からない」
川岸には掬い上げた欠けらが積まれている
「みんなあっちにいると思います」
「だったら茶碗は必要でしょ?」
「そうだね、きっとお腹をすかせている」
「見たこともない茶碗ばかり……」
「それはそれで大事な欠けらだね」
「みんな粉々なんです」
「きっと弟さんもご両親も、亡くした欠けらを探している」
「本当に一瞬だったもの……」
「宇宙の法則なんだ。壊れるときは一瞬さ」
「幸せも?」
老人は、姉妹の瞳から灰汁の涙が流れ落ちるのを見た
「そう、涙袋がパチンと破れるように……」



響月 光(きょうげつ こう)


詩人。小熊秀雄の「真実を語るに技術はいらない」、「りっぱとは下手な詩を書くことだ」等の言葉に触発され、詩を書き始める。私的な内容を極力避け、表現や技巧、雰囲気等に囚われない思想のある無骨な詩を追求している。現在、世界平和への願いを込めた詩集『戦争レクイエム』をライフワークとして執筆中。



響月 光のファンタジー小説発売中
『マリリンピッグ』(幻冬舎)
定価(本体1,100円+税)
電子書籍も発売中



『マリリンピッグ』の主人公アチャナはロボットと結婚した最初の女性


 『マリリンピッグ』では、主人公の少女アチャナとロボットのサケルが結ばれて幕が下りる。人間どうしの愛は精神的なもののほかに性欲が伴うが、そいつは生物に与えられた子孫繁栄の命題に応えるべく、プログラミングされた脳内機能だ。下等生物では出合いがしらに本能のまま性行為が始まるが、高等になるにつれてメスが相手をえり好みするようになる。優秀な子孫を残すために後天的に獲得された本能……、高等な動物では人間も含めて、瞬間的に相手を値踏みする技術が備わっている。いわゆる一目ぼれだが、時代を反映した嗜好と性欲のハイブリッドだから、時代時代により評価内容が変化してくるのは当然だ。
  人間の場合、大昔にはエサの獲得競争に強いマッチョが選ばれただろう。しかし村落や国家などの体制ができてくると、筋力よりも狡知に長けた人間が世の中を支配するようになり、女性も地位の高い男性をチョイスするようになる。玉の輿だとかセレブだとか王族だとか、いまだに憧れとしては根強いものがある。
  現在では女性も男性も対等の立場となり、女性は繊細な美形男子を求めるようになってきている。しかし一目ぼれで結婚しても、お互いに相手が自分の領分を毀損する場合には、経済的な不利益が少なければ簡単に離婚してしまう。相手と折り合いを付けるためには自分の快適性の一部を削る必要が出てくるが、それが嫌だと思う人が多いから独身者も増えている。子供は欲しいが自分の快適な生活は守りたい、なんてことを実現なさる方々は、恐らくお手伝いさんいっぱいのお金持だ。
 政府がいくら口角泡を飛ばしても「産めよ、殖やせよ」の時代は遠い昔。ペットは子供の代わりを果たしてくれるし、ネットは一人寝の寂しさを紛らわせてくれる。ネット上のお相手とはプラトニックラブでいきましょう。
 ……そう、すでに恋愛は繁殖の時代からプラトニックの時代に移行しつつある。ならば将来的に、人間と同じ(あるいは人間以上)知性を獲得したロボットは白馬の騎士のような存在だ。貴女のイメージどおりの美形と、百馬力の体力、貴女のわがままを聞いてくれるし、貴女のお庭を土足で汚すこともない。「俺って機械?」というコンプレックスがあるからこそ、どんな貴女でも、自分には過ぎたお姫様だと必要以上に持ち上げてくれる。
 ……というわけで、アチャナはロボットと結婚した最初の女性となり、二人は末永く愛し合いましたとさ。人間関係にほとほと疲れ果てている皆様、もう少しお待ちくださいませ。きっと素敵なお相手が見つかることは請合いましょう、なんてこれはウソ。機械だけに機会均等なんてことはありません。実はお金持しか買えないほど高額なんです。お金のない貴女がロボット彼氏を持つには、未来の権力者さんにロボット解放令を出していただくしかありませんね。

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