ネクロポリスⅦ
老人は大きな草刈鎌を巡礼杖代わりにして佇む 黒マントを被った同類に出会った ミイラのような顔で寂しそうに微笑み 「俺は死神さ」と呟くように言った 見ろよ、ネクロポリスは広大だ たどり着けない壁に向かい 走ろうと登ろうと 東西南北も定かでない だが、東西南北などくそっくらえ 太陽は陽気すぎ 月は悲し... 続きをみる
ネクロポリスⅥ
老人は泣く男から離れると 岩に穿たれた小さな穴に出くわした 穴の底はキラキラと輝いている 泣く男がやってきて 「ピカドン教室さ、穴に耳を当ててごらん」と囁いた 授業中らしく、中から先生と子供たちの声が聞こえてくる みんな科学の恩恵で生きているんだ 君たちを琥珀の中のアリさんにしてしまったガラス玉 ... 続きをみる
ネクロポリスⅤ
老人は、断崖の岩に腰かけ涙する男を見かけた 男は老人に便箋を一枚渡し 「妻が棺桶に入れてくれた手紙です」と言った それは「死んだあなたを送るうた」というタイトルの とても悲しい詩だった 生きているつもりでも 心の中では死んでいました だいぶ前のことよ あたしを叩いたとき 片隅にあったガラスの愛が ... 続きをみる
ネクロポリスⅣ
老人は崖っぷちに佇む美しい女性を眺めていた 彼女は手招きし、「ごらんなさい」と両手を天にかざす 一つひとつの指から黒い糸が谷底に向かって落ちていった 「運命の糸よ。私って人形師。下界の何もかも、この指で操れる。糸は粘菌のように近しい人たちを結びつけていくの。一人の不幸は、周りの不幸になる」 「女神... 続きをみる
ネクロポリスⅢ
老人は小川に行く手を遮られた 幼い姉妹が川底から瀬戸物の欠けらを拾っている 老人を見ると灰白い顔でニコリとした 「みんな欠けてしまったんです」 「弟の茶碗を探しているのよ」 「弟さんは?」 「母さんだって父さんだって、どこにいるか分からない」 川岸には掬い上げた欠けらが積まれている 「みんなあっち... 続きをみる
ネクロポリスⅡ
老人は暗い森で道を失った 少し歩くとツタの垂れ下がる桜の老木に出くわした 九分咲きの花びらが白々しく揺れている 幹には沢山うろが開いていて 一つひとつに少年たちの蒼ざめた顔が埋め込まれていた どいつも見覚えがあるけれど 思い出したくない顔ばかりだった 「とうとう来やがったな」 老人は無言のまま通り... 続きをみる