詩人 響月光のブログ

詩人響月光の詩と小説を紹介します。

2019年5月のブログ記事

  • ネクロポリスⅦ

    老人は大きな草刈鎌を巡礼杖代わりにして佇む 黒マントを被った同類に出会った ミイラのような顔で寂しそうに微笑み 「俺は死神さ」と呟くように言った 見ろよ、ネクロポリスは広大だ たどり着けない壁に向かい 走ろうと登ろうと 東西南北も定かでない だが、東西南北などくそっくらえ 太陽は陽気すぎ 月は悲し... 続きをみる

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  • ネクロポリスⅥ

    老人は泣く男から離れると 岩に穿たれた小さな穴に出くわした 穴の底はキラキラと輝いている 泣く男がやってきて 「ピカドン教室さ、穴に耳を当ててごらん」と囁いた 授業中らしく、中から先生と子供たちの声が聞こえてくる みんな科学の恩恵で生きているんだ 君たちを琥珀の中のアリさんにしてしまったガラス玉 ... 続きをみる

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  • ネクロポリスⅤ

    老人は、断崖の岩に腰かけ涙する男を見かけた 男は老人に便箋を一枚渡し 「妻が棺桶に入れてくれた手紙です」と言った それは「死んだあなたを送るうた」というタイトルの とても悲しい詩だった 生きているつもりでも 心の中では死んでいました だいぶ前のことよ あたしを叩いたとき 片隅にあったガラスの愛が ... 続きをみる

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  • ネクロポリスⅣ

    老人は崖っぷちに佇む美しい女性を眺めていた 彼女は手招きし、「ごらんなさい」と両手を天にかざす 一つひとつの指から黒い糸が谷底に向かって落ちていった 「運命の糸よ。私って人形師。下界の何もかも、この指で操れる。糸は粘菌のように近しい人たちを結びつけていくの。一人の不幸は、周りの不幸になる」 「女神... 続きをみる

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  • ネクロポリスⅢ

    老人は小川に行く手を遮られた 幼い姉妹が川底から瀬戸物の欠けらを拾っている 老人を見ると灰白い顔でニコリとした 「みんな欠けてしまったんです」 「弟の茶碗を探しているのよ」 「弟さんは?」 「母さんだって父さんだって、どこにいるか分からない」 川岸には掬い上げた欠けらが積まれている 「みんなあっち... 続きをみる

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  • ネクロポリスⅡ

    老人は暗い森で道を失った 少し歩くとツタの垂れ下がる桜の老木に出くわした 九分咲きの花びらが白々しく揺れている 幹には沢山うろが開いていて 一つひとつに少年たちの蒼ざめた顔が埋め込まれていた どいつも見覚えがあるけれど 思い出したくない顔ばかりだった 「とうとう来やがったな」 老人は無言のまま通り... 続きをみる

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