典礼劇 「Pax Ultima(最後の平和)」(第一幕)2
村の司祭: 何が奇跡だ! 奇跡はキリストの復活じゃ。それに神々が一緒に暮らせば、複合汚染じゃん! 利口な神もおれば、愚かな神もおる。だからそのBMI教ってえのはさ、結局何なのよ。わしらは世界一お利口さんのカトリック教徒なんじゃ。騙されはしないぞ!
医師団長: じゃあBMI教はナシにしましょう。いいでしょう。あなたはキリストを深く信じている。なら、その信仰を揺るぎないものにするため、BMIをお注射するのです。これは割礼の儀式だ。洗礼の儀式でもいい。その最大の目的は、究極の平和です。焼け野原、瓦礫の山は平和じゃない。あなた方は間違ってる。十字軍は平和の戦士じゃない。盗賊だ。ハルマゲドンが起これば、人類は滅亡するんです。そいつは核戦争だ。みんな墓から追い出され、幽霊になって最後の審判を受ける。しかしBMI教の目的は幽霊どもの平和ではなく、ここにあるこの世の平和なんです。地上天国だ。それは、永久(とわ)の安らぎを目的とする。すなわち核戦争で全滅しないための平和づくり。永遠に続くパックスBMIだ。
医師A: 世界中の神様が雑居をはじめたんです。宇宙人から見れば、それは一神教ですが、それは違う。カトリックもプロテスタントも、ほかの何タラ教も手を繋ぐ。仏教もイスラム教もヒンズー教も神道もみんな集まって、世界中のありとあらゆる宗教が仲間となり、統一されるんだ。そのとき初めて、神々の発生源が人々の愚かな欲望であったことを理解する。すなわち、まずは神々から改心させる必要があるのです。上が統一されれば下も従う。そして信者は、統一されたBMI教に回心する。
医師B: あらゆる宗教の神様が、地球人民服を着るのです。その服のベーシックカラーがBMI教だ。だから、あなた方のファッションが綺麗なキリスト教の襞襟なら、それも許される。神様皆兄弟、人類皆兄弟。だから喧嘩は起こらない。そう、BMI教は神々の集合体だ。その信者は、一を聞いて十を知る。いまのあなた方は十の神を聞いても、一の神を知ってるだけ。その原因は、別々のプラットフォームに異なる神様が立ってるからでしょ。同じ駅に立ちましょうよ。それぞれがキリストでも仏陀でもシバでも、推し活すればいいじゃんか。その駅が、BMIという名の駅です。そう、BMIは神々が集う平和の土俵だ。その上では、お相撲さんは戦わずして抱き合うのです。
村長: まな板ショーかよ!
村人女: 何です、それ?
村の司祭: それは1985年に禁止されたはずじゃ……。嗚呼、お前たちの言ってることが分からん! 頭が割れちまう。キリスト様がお怒りじゃ。ヤハウェの上にプラットフォームを造れと? この罰当たり者! で、いったい何しに来たんじゃ! ロボットどもを引き連れて……。村人をみんなここに集め、全員殺そうってんじゃないだろうな。
医師団長: 歴史を振り返れば、無きにしも非ずですな。神々統一連合の判断で、法的には殺してもいいんです。ぶっちゃけ、人類は少なければ少ない方がいい。繁殖しすぎだよ!
(ロボット兵士団が銃を構え、村人は悲鳴を上げ、両手も上げる)
村長: とうとう馬脚を露しやがって!
医師A: (長く太い針を見せ)悪いな、時間がないんよ。お前らと遊んでいる暇はない。これが割礼用の注射。ワッ痛そ! 生まれた子供はもちろん、百歳を超えたお年寄りまで、こいつを目の上に刺すんだ。そして前頭骨の眼窩板に少しばかり穴を開けて、脳味噌の中に2ミリ四方のチップを三枚埋め込みます。たったこれだけの簡単手術です。痛くはありません、いやけっこう痛いか。ただ、ロボット助手が力づくで体を抑え、固定します。もちろん良い子には力を加減します。拷問よりはずっとマシだ。
(若者が三人逃亡すると、ロボット兵がすかさずバンバンバンと射殺する)
村長: なんてことするんだ! (介抱しようと駆け出すがロボット兵に止められる)
医師団長: まあまあまあ、まずは村長さん、あなたからだ。あなたが率先すれば、ほかも従う。
村長: やめてくれ! (手を合わせ)注射は嫌いなの……。
医師団長: 子供じゃあるまいし。良い子は暴れない!
(村長は二台のロボットに押さえ付けられ、泣きながら予防接種会場の教会堂に引き立てられていく)