詩人 響月光のブログ

詩人響月光の詩と小説を紹介します。

典礼劇 「Pax Ultima(最後の平和)」(第ニ幕)1

響月光の詩と小説

第二幕

(教会堂の中。村長は泣きながら祭壇に座らされ、もう一台が後ろから頭を押さえ、医師Aが目の上に注射する)

医師団長: 世が平和になったのは、男も女も、世界中の人々がすべて割礼を受けたからです。

(注射された泣き虫村長は立ち上がり、一転両指を鳴らし、笑いながら踊り始める。次は村の司祭が祭壇の上に座らされそうになる)

村の司祭: 嫌じゃ。私に触るな! 祭壇は神聖な場所じゃ。私のケツで汚したくない。

村長:(おどけて)本当はお注射怖いなのね? この、意気地なし!

医師A:  じゃあ、説教台にしましょう。

村の司祭: やめろ! 神様に訴えるぞ! (注射を打たれて)嗚呼、痛いん!

(司祭が終わると、ほかの村人も次々と説教台に引き立てられ、医師AとBが交互に注射していく)

村長: 信じられない。背中の痛みがウソのように無くなった。

村の司祭: 坐骨神経痛も消えたぞ。まるで若者になったようじゃ。先生、割礼って、BMIってさ、ブレイン・マシン・インターフェイスのことじゃろ?

医師団長: さよう。移植により知識も豊かになりましたな。そのBMIは、あなたの心がご自分の体をコントロールするんじゃなく、神様の御心があなたのすべてをコントロースするのです。

村の司祭: それは常に私の理想であった。これで、長年苦しんでいた若い娘の信者に対する欲望も無くなるのだ。つまり自分の欲ではなく、神のご意志が電波となって、私に変わって私を完璧に制御するってことかな? して、その神とは?

医師団長: (急に威張って高笑いし)お前さんの場合、ヤハウェかキリストだろ。BMIは聖書を脳味噌に埋め込むためのチップじゃない。お前の欲深い下卑た魂へのキリスト様の降臨をフォローするんだ。人類すべてが生を得るとき、この割礼は、神の子羊キリストが二本の指で掲げる祝福となる。曲げた三本の指は三位一体を表し、小指の先から精霊がお前に注がれる。そのとき神はお前に感染し、お前は神であるとともに、完璧な人間となるのだ。そしてそれは、BMIの永遠の僕となったことを意味する。

村の司祭: (手を合わせ)アーメン! 嗚呼嬉しや……。

(村人女が、同じように引き立てられ、手術を施される)

村人女:   嫌! やめて! (打たれてスッキリした顔で)痛くなかったわ。神様と一体化したんね?

医師団長: そうだ。赤子を傷付ける古の神事は、洗礼に変わってから、再び祖先帰りし、輝きを取り戻した。それは宇宙の創造者との契約である。洗礼の最終バージョンは、頭に聖水を注ぐことではなく、頭の中に神を宿すことであった。頭の中の神のお宿。宿主と神の合体融合、それが人類進化の最終バージョンなのだ。これで地上は天国となり、永遠の平和が訪れる。ならば古(いにしえ)の妄想である最後の審判は不要となった。すべて良き人なら、ハルマゲドンもナシじゃ。神の判決は「諸人すべて無罪とする」。BMI様が、お前たちの罪をすべて背負ってくださった。

村の司祭: 有難いお言葉。ならば私のお仕事は?

医師団長: お前はクビじゃ、リストラじゃ。司祭も牧師も坊さんも神主もいらない。それら神を騙るブローカーは一切必要ない新たな社会システムが、構築されたのじゃ。

村の司祭:(おどけて目を剝き、舌を数度出し入れし)ざんねーん!

医師団長: 神の言葉は直接お前の頭に鳴り響く。それは十字架の血潮となってお前の血と混じり合い、お前の肉が朽ちるまで、生涯変わらぬ信仰が約束されるのだ。創造主のみが許した、選ばれし生物の最終的進化。生まれてから死ぬまでの固い信仰が、お前たち愚者どもを救ったのだ。これこそ地上天国じゃ。

村人男:(注射を終え)アーメン、そして大本であられる創造主、ヤハウェの神は何処(いずこ)に? 

医師団長: 地上のすべてに……。お前の愚かな脳味噌にも、私の畏(かしこ)き脳味噌にも、いと高きメインフレームの隠れ場にも、万教同根のヤハウェがおわす。BMIの神輿に乗って……。

村人女: ならば、私もあなたも神々の一族なのですね?

医師団長: 下がりおろう! 愚かな女よ。神は唯一神じゃ。ヤハウェはBMIの神輿に座り、キリスト様が神の子羊なら、お前も私も、単なる端末じゃ。最下層の末節じゃ。

村人男: しかし私もあなたも、ヤハウェの神も、BMIに操られるフィジカルAIの一部なのでは?

医師団長: 滅相もない! ヤハウェを始めとする八百万の神のご意志が、その杖であるBMIにより統合されたのじゃ。基板としてのBMIは、神のご意思そのものの基板じゃ。この宇宙すべてが、いと高き方のマザーボードじゃ。お前たちのヤハウェは、ほかの神々とともに、お前たちにとって、宇宙の摂理そのものに昇格したのじゃ。全能の神ヤハウェは、下等な生物であるお前たちにブレイン・マシン・インターフェイスをお授けになった。その基板は、ヤハウェのご意志の具現化ツールじゃ。その結果、この小さな星そのものが、聖なるシェルターとなり、繰り返す戦い、血を血で洗う戦いは終焉した……。

村人女: でも地球には、悪い神もおりますわ。

医師A: (手術をBに任せ)そいつらを神と呼ぶな! それは悪魔だ。神々は戦い、悪魔と化す。過去において人間が戦い、悪魔化したのと同じだ。悪魔化した神々はBMIにより平定されたが、生き残りが地下深くに潜んでおる。それらはハッカーとなって妨害電波を発し、ヤハウェの割礼チップを破壊するのだ。だから神の使徒である我らは辻検診もしておる。さあ、さっそく術後検査じゃ。両手を私の手にかざしなさい。

村人女: で、汚染されていましたら?

医師B:(村人たちの手術をしながら)手遅れだ。チップを侵したウイルスはすでに体内を循環している。残念だが、コロナ・パンデミックの仕来り通り、お前はニワトリのように生きたまま袋に入れられ、穴に落とされるのだ。

村人女:  怖いわ。(村の司祭に)司祭様の前に跪き、神にお祈りいたします。

村の司祭: 愚か者、止めなさい! お前はスケープゴートじゃ。すでにお前は神の一部。ならば神は、お前を不浄な垢の如く、こそぎ落とすことにやぶさかではない。お前は神とともにあり、神はお前とともにある。お前はすでに神を宿し、神はお前の心となった。ならばお前に生きる喜びも、死ぬ喜びもない。なぜお前は、生きることを懇願するのじゃ。私の神はお前の神でもある。そしてその神は、私とお前の心でもあり、全人類の心でもあるのじゃ。ならばなぜ、私の中のお前に祈るのじゃ。私もお前も、すでに神が乗り移られておるのだ。私もお前も、神の操り人形なのじゃ。所詮人間は、神の意のままじゃ。

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