典礼劇 「Pax Ultima(最後の平和)」(第一幕)1
♫ Zombes! Quid quaeritis? Pacem quaeritis. Pax quaeritur bello. At in capite tuo esto.~♬
聖歌隊がラテン語で、グレゴリア聖歌のメロディに乗って「ゾンビどもよ、何を求めているのか? お前たちは平和を求めているのだ。戦争の目的は平和である。だがそれは、お前の妄想だ」と歌う。
第一幕
(村の集会場。割礼を受けていない寒村に、ロボット軍団を引き連れた国境なき割礼団がやってきた。彼らは辻手術を生業とする。まずはロボット軍団が強引に、赤ん坊から老人まで追い立て、集める)
医師団長: 皆さん、我ら神々統一連合は、予防注射にやって来ました。
村長: 聞いてないぞ! なんだその神様統一連合っちゅうのは?
医師団長: 平和のための新たな国際機関です。で、これは不意打ちです。だって山岳民族は、直ぐ山に逃げちゃうもん。皆さん、予防接種のおかげで、戦争パンデミックは鎮静化に向かいつつあります。このお注射、昔はロボトミー手術と言われておりましたが、新たな名前で復活です。いまはBMI注射といいます。我が神々統一連合の提案で、全人類をBMI教に統一するため、地球に棲息するすべての人間に接種します。拒否する者は、寺請制度違反者と見なし、銃殺です。
村長: あんた、ここはど田舎のカトリック村だぞ!
医師団長: だからさ、全世界余すところなくBMI教に統一されたんだって!
村人男: ふざけんな! 俺はカトリックなんだ。
医師A:あなた猿みたいな顔して、どう見ても人間じゃない。猿ですか?
村人男: バカ、人間じゃ!
医師A: じゃあ猿じゃなくて、立派なキリスト教徒だ。ならば、基本はBMI教徒で、その分派としてカトリックを信じている。
村長: なんだ、その基本ってえのは? カトリックの上はBMIじゃなくてキリスト様だろ。第一BMI教なんて初耳だぞ!
医師団長: BMIはキリストの上ですよ。PC的に言いますとね。
村長: 何だよPCって?
医師団長: 驚いた。この村にパソコンないの?
村長:パソコンぐらいあるわな。
医師団長: なら例えば、あんたがパソコンで「カトリック」とか「新約聖書」を検索すると、検索アプリが動作するためのウィンドゥズとかマックみたいなプラットフォーム。あらゆる宗教の土台。それがBMI教です。
医師A: つまり、あなたが通う教会の地盤、キリスト教を信じる土台、キリストを愛する心の源がBMI教です。だから、その基盤の上にあなたは天まで届く教会を建てりゃいい。カトリック命で構わない。信仰の自由は保障されます。
村人女: 全然分かんないわよ。BMI教の教えって何なのさ。宗教の教えだったら、キリスト教とバッティングしちゃう。教えがないんならさ、その不愉快な語尾、お取りなさいよ! だいたい、BMI教の聖典ってあるの?
医師A: (怒って)ありません。ある必要もないし、分かる必要もありません。分からなくてもいいんです。世界法があるんです。従わなければ犯罪です。違反者は強制逮捕だ。我々はかつてのアイスなんです。
村人女:ワッ! アイス大好き!
医師団長: (医師Aをなだめ)まあまあまあ、奥さん、じゃあキリストの上の神様は誰ですか?
村人女:そりゃヤハウェでしょ。いや、……エホバかしら?
医師団長: ハハハ、同じだ。ほかの宗教でいいますと?
村人女: 知るわけないでしょ!
村の司祭:ギリシャではゼウスかな。イスラムではアッラーと呼ばれるな。インドではブラフマン、日本ではアマテラス、ゾロアスターではアフラ、北欧ではオーディン、仏教では大日如来……。
医師団長:さすが司祭様、詳しいですな。でも、それらの最高神は、実は家族だったってこと、知ってます?
村の司祭:新説じゃな。乱交の結果か? スケベな神様が多いからな。
医師団長: いやいや、神様を愚弄しちゃいけません。みんなで一緒に宇宙を統一してんだから、宇宙兄弟でしょ。なのについ最近まで、酷く対立してました。感情的なものです。犬猿の仲でした。悲しいな。それぞれが住まわれていた家は、ギリシャはオリンポス山、北欧はヴァルハラ、インドはカイラス山、日本は高天原、あなた方のヤハウェはお空のどこかと様々でしたが、BMIというプラットフォームに統一された結果、八百万の神々が仲良く同じマンションに住まわれることになったのです。もちろん大家はBMIです。
村長:で、その超高層マンションはどこにあるんだい?
医師団長: その石のようなカチカチ頭の中でしょ、あなたの心の中に建っておりますよ。それがBMIなんだ。だが夢じゃない。実体だ。現実なんだ。全人類の頭の中に、八百万の神々が同居するのです。これは奇跡だ! 奇跡以外の何ものでもない。