詩人 響月光のブログ

詩人響月光の詩と小説を紹介します。

エッセー 「メタバースでマリウポリを再興しよう!」& 詩

エッセー
メタバースでマリウポリを再興しよう!


 ロシアの進攻で、瓦礫と化したウクライナの町々が映像として目に飛び込んでくるようになってきた。僕を含め、多くの日本人が心を痛め、避難民をなんとか助けてやりたいと思っている人も多いに違いない。停戦に向けた話し合いは停滞していて、いつ実現するかの見通しも立たないまま、東部の港湾都市マリウポリではロシア軍の壊滅作戦が進行し、1カ月で5000人以上の市民が亡くなったとの情報もあり、16万人が人道危機に直面している。このままロシア軍が攻撃の手を緩めなければ、さらなる犠牲者が出て、都市全体が廃墟と化すのは時間の問題だろう。ピカソはナチスによる人類初の無差別爆撃で廃墟と化したスペインのゲルニカ(1937年)を灰色の絵画で表現したが、それは20世紀を象徴する絵画と評されている。もしマリウポリの惨状をバンクシーのような有名画家が描いたら、それはきっと21世紀を象徴する絵画になるだろう。21世紀にもなってまたかよ!って感じで歴史は繰り返す、というわけだ。


 多くの専門家が、この戦争は長引くだろうと予測しているが、マリウポリが一時的にもロシアの実効支配下に置かれた場合は、それを取り返すには長い時間がかかることを覚悟しなければならない。仮にウクライナがすべての土地を奪還したとしても、ロシアはいままで自分が壊した外国の資産を賠償したことはないらしいから、瓦礫と化したマリウポリもそのほかの都市も、復興するまでに長い年月と莫大な資金を要することになる。


 当然、多くの民主国家が政府レベルでその援助に傾注するだろうが、いまの世界市民はインターネットで繋がっているから、個人レベルで友好的かつ有効的な援助ができるはずだ。例えばマリウポリをメタバース空間(仮想現実空間)で復興するのも一案である。建設業界やエンジニアリング業界では、都市やプラントを岩だらけの沙漠や原野に造るとき、「グラスルーツ・プロジェクト」と呼ぶことがある。グラスルーツは文学的に「草の根」と訳されるが、この場合は草の根っこを掘り返す(一から)ところから始める建設という意味だ。


 このままロシア軍が横暴を極めると、マリウポリのすべての建物が瓦礫と化す可能性はあるだろう。そこにロシア軍が居座っても、ウクライナは自分の土地だと主張し続けなければならない。しかしロシア軍は頑として退かない。ならばウクライナは、ここは自分の土地だとメタバース空間で主張し、世界各国の人々に都市の再興を呼びかける。当然、呼びかける人も、空間を構築・運営する人間も日本の誰かでもいいし、日本の企業でもいい。マリウポリの現状を忠実に再現したベースを創り、参加者は仮想通貨を払って重機を購入し、まずは瓦礫の撤去から始めなければならない。「グラスルーツ・プロジェクト」の始動だ。重機メーカーや建設会社、資材会社も参入してくれよ、と願おう。彼らは復興支援には不可欠だ。恐らくマリウポリの市民が求めているのは、破壊前のマリウポリの姿だろう。ならば仮想空間でも、かつての姿に沿った建設が進んでいくことになる。


 多くの民間参加者(アバター)はボランティアとしてパンツ一丁で入り込み、最初にワークマンのような店に入って、仮想通貨で作業服や手袋、ヘルメットなどを買い込み、重機屋に行ってミニショベルのような重機も手に入れる。この世界で支払うすべての通貨は、ウクライナの復興資金に寄付されるのだ。当然のこと、賛同するウクライナ人はパスポートを表示すれば、支払いすることなくすべての道具を手に入れることができ、復興に参加できる。


 そうしてだんだん、かつての懐かしき我がマリウポリが再現されていく。多くの市民アバターが戻ってきて、かつて住んでいたマンションを見上げ涙するだろう。かつての部屋に入ると、玄関には下の画廊で購入したNFTアートが掛かっていて、それはボランティアからのプレゼントだ。もちろん、数人の仲良しボランティアが払った仮想通貨は寄付金に加えられる。各々の部屋には家具がないけれど、部屋の間取りはだいたい合っていて、彼らはさっそく無料チケットを手に、一階の家具屋に行って似た家具を見つけてくるだろう。花屋も再会したので、部屋いっぱいに季節の花を飾っていこう。


 ボランティアのアバターたちは、ウクライナのアバターたちと兄弟のようになって、この美しい町に住もうと思うだろう。仮想通貨での日常生活が始まれば、購入した日用品の代金もすべて復興資金に寄付されるのだ。こうして、世界中から来たアバターたちが一定期間滞在して、賛同参入した店舗などで買い物をし、そのお金が寄付されて、復興資金はどんどん貯まっていく。ボランティアたちはウクライナに馳せ参じることもなく、アバターに汗をかかせながら復興に参加した喜びを得、完成したマリウポリの土地を買って滞在し、仮想空間の生活を体験し続けながら街の人々と兄弟になっていく。きっとお金持ちは高く土地を買ってくれ、復興資金も増えるに違いない。


 多くの企業が参加することになれば、支店ができて社内会議や顧客との商談も始まり、それらの費用も寄付金に加算されるだろう。マリウポリは仮想空間上の大きな商工業都市となり、それは現実社会との関係を深めて、将来的にはかつての香港のような仮想空間上の商業的窓口になるかもしれない。そこは戦争の対極にある人類愛の世界が広がる場所で、その頃にはウクライナも現実のマリウポリを奪還し、集まった資金で本物のマリウポリが蘇るに違いないし、そうしなければならない。メタバースはあくまで仮想空間なのだから。しかし、現実空間を助ける仮想空間の可能性を秘めた世界でもあるのだ。21世紀型の復興支援事業としてメタバースは可能性を秘めている、と僕には思える。




御膳会議


痩せたライオンのお父さんが言った
子供たちよ、お母さんたちを信じなさい
あいつらは立派な戦士なのだから
さあ、子供決意の標語を唱えなさい
痩せたライオンの子供たちは吠えた
欲しがりません獲るまでは!
そうだ子供たちよ、お母さんたちを信じなさい
そしてあいつらの凱旋を待つのだ
大きな敵を射止めてお前たちを迎えに来るぞ
痩せた子供たちは色めき立った
わあい、きっと大きなゾウだよ
いいや、シマウマのほうが美味しいよ
味ならイボイノシシさ
でもイボイノシシは小さいから
お父さんにみんな食べられちゃうよ
痩せたライオンのお父さんが言った
子供たちよ、お父さんを信じなさい
お父さんがまず考えるのは
行儀のよいお前たちのことなのだよ
たとえお母さんたちが
ウサギ一匹くわえて戻ってきても
それをお前たちが仲良く分けて食べるのだ
痩せたライオンの子供たちは答えた
わあいお父さんはやっぱ百獣の王様だ!


お母さんたちがヘトヘトになって戻ってくると
その中の一匹が小さな野ウサギをくわえていた
子供たちは驚いた顔してそれを見上げたが
痩せたライオンのお父さんは
大きな声でお母さんたちをなじった
なんだこのザマは!
それでもおいらの女房どもか!
それから獲物をサッと奪うと
痩せた子供たちの前でパクリと
一息に飲み込んでしまった…



核デトックス
(戦争レクイエムより)


人類がいずれは滅びると予測される時間帯に
糞袋ほどはあるだろう弾頭が夕日とぶつかり合い
キラキラ輝きながらヒューという鏑矢の音を立てて
限りなく混濁した黄昏の暗黒宇宙に接するその先から
巨大なヒキガエルがいきんで落とした穢れある死の輝きを
疲れはてた同類の誰もが信じることができずに逃げまとい
ダンゴ虫の形相で泥の中に紛れ込み
猿どもは土くれと化すのだ


無駄な抵抗は止めたまえ!
怯えおののく心を伴侶に旅立つこともないだろう
死に行く者の片割れとしていささか自虐的に 
心穏やかに天空を睨みつけ、つかの間の未来を受け入れる
それは脈拍のリズムで刻んだ過去たちの走馬灯
子供の頃に夜空に散る花火を眺めたことを思い出し
胸ときめかせた幼心に戻って円らな瞳で見上げるのだ
滅びるときの感動は、生まれるときの感動に勝る


糞玉はとちったスカ玉みたいにばつの悪い顔をしながら
みるみる生気を失って、ほとんど空気に紛れ込み
頑なに目をつぶって向かってくるのだ
いったいどんな愚か者が粗相したの?
きっと猿のように莫迦な奴だと嗤いながら残された一瞬に
思い切り目ん玉を見開いて哀れな姿を眺めてやろう
ちっぽけな俺たちを消すのに、お前の図体は大げさすぎる
大柄な愛人が肩をすぼめるように
完璧な玉になろうとして自らを消し去り、空(くう)となった
お前は猿どもが捏造した地球、否、地球が捏造した猿どもだ!


すると抜け殻のように空しい伽藍洞に俺の思い出どころではなく
猿親父の思い出も、猿じいさんの思い出も、猿兄弟・猿親類の思い出も
猿友の思い出も、見知らぬ猿たちの思い出も、猿人も
ライオンもシマウマも、恐竜もアンモナイトもゲテモノたちも
魑魅魍魎すべての思い出がビックリ箱から飛び出した 


嗚呼、茶番な玩具の戦士たち…
お前、落書きのような似非地球…
能もなく回り続ける地球ゴマ…
狂気に踊るガラクタどもを孕んで産んで
よく我慢できたものだ
風穴開けろ! 吐き出せ! 下せ! パンクしろ! 
ビルの屋上から哀れな通行人めがけて落下するように
糞玉はすべてを道連れに
蛆虫どもの後始末をお前に託すのだ
ならばお前にデトックスの喜びを味わわせてやろう
所期の計画は噴飯ものでしたが
育てたすべてが半端ものなら仕方ございません


さあ初期化だ、出直しだ!
ようこそリプログラミングの世界へ
放蕩息子の帰還を迎え入れる父親のように
穏やかな死に十字切る喜びの中
俺は両手を思い切り開いて彼奴をハグしよう
嗚呼お前、ペーパーアース
破れかぶれの静しさよ
すべての始まりも、すべての過去も、すべての未来も
不要なガラクタとして打ち捨てるのがお前の裁量なら…










響月光の小説と戯曲|響月 光(きょうげつ こう) 詩人。小熊秀雄の「真実を語るに技術はいらない」、「りっぱとは下手な詩を書くことだ」等の言葉に触発され、詩を書き始める。私的な内容を極力避け、表現や技巧、雰囲気等に囚われない思想のある無骨な詩を追求している。










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