詩人 響月光のブログ

詩人響月光の詩と小説を紹介します。

奇譚童話「草原の光」十七 & 詩


海辺の英霊

(戦争レクイエムより)


水平線はるか彼方に
かつて生まれた天国があった
嗚呼我が故郷 あふれ出る狂騒
いまは潮風囁く珊瑚の浜辺に
我がしゃれこうべは白砂と化し
平穏の時を波と戯れる
生き抜くための戦いを潤す
黒赤く膨れた血袋は朽ち
罪深き心もろとも波に洗われ精粋に
いまここにあるのは白魚のごとき無感情
いまだ戦い終えぬ息子たちよ
死に際のひとときに悟る心が芽生えよう
舞い上がるために力尽きたその先を
人生は死ぬための滑走であると…
そこは宇宙という悠久の無機質
あらゆる希望が溶け出る無限… 




美しい炎の家から
(怨霊詩集より)


さあ見てごらん
黄金色に輝く炎がほんの小さく
白亜の家のベランダから
真夏の夜の晩餐に
君とフィアンセと
善良そうな老夫婦が
まるで花火を見るように
金串に刺さった肉塊を宙に浮かせ
あの男の住んでいる方角だと囁きあい
なにかしらの期待に胸を膨らませながら
フラッシュオーバーを待ち望む


君はきっと女の勘で
豆粒ほどの黒赤い炎が
ドロドロとした血の燃える色だと
肉汁のような額の汗を罪なき手の甲で拭いながら
呟くだろう あの人だわ…
消滅すなわちカタルシスだ
僕からのささやかなる贈り物、いや大いなる…
しかし解放された気分は僕も同じ


さあピンク色の煙は
天に向かう僕の魂です
まるで赤子の肌のようなわがまま色
ピエロの最終興行ではありきたりの
おふざけの余興ではあります
さようなら 誤解をしないでおくれ
君も僕も解放されたのだ
だからウェルテルではない
不評はなはだしい下衆なストーカー
針穴のごとき視野、猪突猛進 しかし大いなる誤解だ 


煮え立つ血潮は地獄の釜 薪をくべるやつがいるんだから
いいだろう下卑た感情 悪しき遺伝子
捨てた人生はすべて拒否してきました
君だけを除いて おかしなことに君だけを…
単に君だけを除いて 君だけだった…
嗚呼 僕はクレームを付けに地獄に昇っていく…




ドッペルゲンガー
(怨霊詩集より)


おいここは俺が寝るスペースだ
この世界にも階級制度があってね
人が寄ればどちらかが偉いに決まっているのさ
ところで俺の顔に見覚えはないかい
そうさ出来の悪いクラスメイト
人生ほとんど野宿暮らしの人間さまだ


おいお前は秀才だったな
いったいどうした落ちぶれようだ
飲む打つ買うのどちらでしょう
会社の金をちょろまかし、女に貢いでム所暮らし
社会に戻ればスッポンポンで公園暮らしときたもんだ
体たらくの方程式は 神代の昔からのお定まり
ご先祖さまから綿々と引継いできた
欠陥遺伝子というやつさ


低空飛行の人生と乱気流の人生じゃ
どっちを選べといっても好みの問題
どのみち行き着く先は地獄の三丁目
しかし俺は空中分解などせずに
地獄の底に軟着陸だ


少しは楽しい思いをしたお前と
夢の中で一生を終わる俺と
どっちが楽しいかも難しいな
お前は今を呪い 俺は人生を呪う
お前は運命を呪い 俺は生まれたことを呪う
お前はきっと人を呪い
俺はきっと世界を呪う


ところで俺がお前の影法師だとしたら
お前は腰を抜かして泣き出すだろう
びったりお前の人生を操ってきたのだから…






奇譚童話「草原の光」
十七 シリウス星人はロボットだった


 秘密基地は広い円形の広場で、空飛ぶ円盤がいっぱい停ってる。ドアが開いて、みんな外に出たけど、母さんは干物になったアインシュタインを肩に掛けて出てきた。すると、街のほうからチッチョを先頭にヒカリや先生や宇宙人もエロニャンもモーロクもカメレオーネも大勢がやって来て、母子、兄弟の再会を祝ったんだな。
 でも当人たちはハグしても、そんなに喜んじゃいない。先生がそのことを聞くと、「僕も分身なのさ」って答えが返ってきた。本物じゃないから、母さんを見ても嬉しがらなかったんだな。なんでもシリウス星人は、いろんな星に行きたいもんだから、一人が千人の分身を持っているんだって。で、だいたい本物は生まれ故郷の星に家族と暮らしていて、家のVR室でカウチに寝そべってポテトフライを食べながら、分身たちの冒険を楽しんでるんだってさ。だから地球にいるシリウス星人は全員が干物仕様のロボットで、地球にやってくるときは干物になってやってくるんだな。本人が家族と一緒なんだから、分身の家族が再会したってそんなに感激しないってこと。だって分身は、ダークマター通信で、本人と同じことをリアルタイムに考えてるんだからさ。


 でも本人が同時に千人の分身の行動をコントロールするなんて不可能さ。だから普段の分身は、本人が取るだろう判断を自動的に予測して、スムーズに動いてるってわけさ。分身たちの行動は、あらかじめ自分の考えをコンピュータにインプットしてるから、千人いたって自分の思うとおりの動きができるんだ。たとえ分身がやったことを本人が満足しなくても、それは本人がやったことになるのさ。だって本人と分身の違いはないもの。本人は分身であり、分身は本人だから、本人が分身を叱ることなんかありえないのさ。分身が変なことを仕出かしても、やっちまった!って自分が後悔するだけさ。だってこれは、分身がいなくても、誰でもおんなしことなんじゃないの。


 それでもおかしくならないのは、人の考えることなんて、みんなだいたい同じよね。で、今回の場合はお尋ね者の分身を捕まえたんだから、裁判が始まるまでは牢屋に入れとかなきゃいけないんだ。でも、牢屋なんて宇宙人の基地にはないさ。地球の宇宙人はみんなロボットなんだからさ。干物にすればいいんだ。で、チッチョは干物になったアインシュタインを自分の家の軒下に吊るして、洗濯ばさみで止めたのさ。


 それからシリウス星人は来た人たちを自分の家に招いたんだ。大きな洞窟の中にある透明な泡が彼らの家さ。石鹸の泡みたいにたくさんの泡が固まって高い洞窟の天井まで届いているんだ。泡の高層ビルだな。チッチョと家族は、先生とヒカリとその住人、アマラ夫婦とカマロ夫婦、それにウニベルとステラを招待したんだ。みんながエレベータの泡に乗ると、エレベータはシャボン玉みたいにふわりと浮いて、高層まで飛んで、一個の泡にくっ付いたんだ。すると、くっ付いたところに穴が開いて広がり、泡の家に入ることができた。


 入ってみると、すごく広く感じて、そこはシリウス星人の星だった、っていうか、みんながホームシックにならないように、泡の内側全体がバーチャル世界になってたんだな。でも、これはリアルタイムの映像で、みんなの家にシリウスから送られてくるんだ。
シリウス星人は元々家を持たないで、大自然の中で野宿をしてる。エロニャンと同じさ。わらの家とか木の家とかレンガの家とか、とにかく家ってのは、怖いから囲いを作りたいだけのことなんだ。怖いことなんか何もないところでは、野宿があたり前なのさ。
でもほかの星に来ると、宇宙人は自己主張しちゃいけないってのが宇宙の決まりなんだ。地球だって、文明の発達した人たちが自己主張したから、ほかの文明がどんどん潰れていったものね。アインシュタインがそのおきてを破って自己主張したから、大きな爆弾ができて、地球の文明もおかしなことになっちゃった。宇宙人は宇宙人らしく隠れてなきゃいけないんだ。脳ある鷹は爪を隠すって言うだろ。


 シリウス星人の星は、シリウスから百番目の惑星で、シリウスがちょうど太陽ぐらいの大きさに見えてる。でもって、カメレオーネの星は百十番目の惑星なんだ。
 ウニベルとステラは感激して、自分たちの星が見えないかなあってお空を探したけど、ちょうど昼間でシリウスが明るすぎて、ぜんぜん見えないんだな。チッチョはガッカリしてる二人を見て、「じゃあ昨日の夜の映像を見せるよ」っていって夜景に切り替えたんだ。すると、夜空に十個の惑星が浮かび上がって、いちばん小さな星がカメレオーネの星だったんだ。その星はガスに覆われていて、そいつが目だとすると、ちょうどカメレオンの尖った頭や大きく開いた口や、長いジェット噴射が見えるから、一目見ただけでカメレオーネの星だって分かるんだな。二人は「これこれ、これが私たちの星」って言って長い舌を伸ばしたから、舌がドームの壁にぶつかってくっ付いちゃったんだ。二人は慌てて引っこめたから、シャボン玉はパチンと割れて、チッチョの家はなくなっちまった。すると下の家の屋根が開いて、みんなその家に避難することができたのさ。


 その家にはチッチョの仲間のチッチョリーナが住んでいたんだ。チッチョが家の壊れたわけを説明すると、チッチョリーナも手伝ってチッチョの家を再建することになったんだ。二人は家の屋根に出てピンクの体を赤くしながら、大きく息を吸ってからトロンボーンのような口をもっととんがらせて息を吐き出したんだな。すると二つの鼻提灯が出てきて、どんどん大きくなってくっ付き、二部屋もあるチッチョの家ができ上がった。宇宙人の家って簡単にできるんだな。


 でもって、一つの部屋はシリウス星人の故郷、もう一つはカメレオーネの故郷をずっと映すことになったんだ、ウニベルとステラは何万年ぶりに今の自分の星を見ることができるようになったんだな。ウニベルが「拡大、拡大!」って叫ぶと、星を覆っていたガスを突き抜けてカメレオーネの星がはっきり見えてきたんだ。それはまるで地球みたいな青い惑星だった。二人は感激して、ステラは「もっと拡大、もっと拡大!」って叫んだんだ。すると惑星はどんどん大きくなって、とうとう海と陸が見えてきたんだな。二人はさらに「拡大、拡大!」って叫び続けると、とうとう映像は陸の上に転げ落ちちまった。そこはエロニャンの住む野原とそっくりだったんだ。


 でもカメレオーネは一人もいない。すると先生が叫んだな。
「ここは大昔の地球じゃないのかね!」
 先生は、遠くからこちらに向かって走ってくる恐竜を見て言ったんだ。体長五メートルくらいのサイみたいな恐竜が、体長十メートルくらいの口の大きな恐竜に追いかけられてる。サイみたいのは命からがら森の中に駆け込んだけど、大きな恐竜は木に邪魔されて諦めたんだな。するとその大型恐竜が「ウパパラパラチョビレ!」って大声で叫んだんで、ウニベルもステラもビックリしたんだ。
「あれは何語だね?」って先生はウニベルに聞いたら、「カメレオーネ語さ」ってウニベルは答えた。
「チキショウ、戻って来いよって意味よ」ってステラ。でも、若いカメレオーネたちはカメレオーネ語なんか知らないから、不思議な顔してたな。
 すると、いろんな形の大きな恐竜たちが百頭くらいやって来てケンカをおっぱじめたんだ。
「カラクソポチャソボロ!」「ハメハメハラポッチャ!」「クソクソナメチョビレ!」なんて怒鳴り合ってるのを、ステラは「やるかこの野郎!」「噛み殺してやるぜ!」「それはこっちの台詞だい!」って訳したな。それからすごいケンカがおっぱじまって、大地が地震みたいに揺れて、映像もゴチャゴチャになって、チッチョは思わず通信を切っちまったな。


「あの恐竜たちはいったい何なの?」
 ステラがチッチョに聞くと、「君たちの子孫じゃないか」って返事が返ってきたので、ステラもウニベルもほかの連中もオッタマゲたんだな。そういえばカメレオーネの星なのにカメレオーネは一人もいなかったんだ。
「だからあれがカメレオーネの子孫なのさ」ってチッチョは言って、ステラとウニベルが地球に来たあとのカメレオーネ星の歴史を説明したんだ。


 そいつは長い説明だったんで短く話すと、要するに何にでも変身できるカメレオーネたちは、自分の姿に飽きた時期があったんだ。彼らは小さいことにコンプレックスがあったんだな。で、爬虫類でいちばん大きいのが昔地球にいた恐竜だってことを知ったんだ。それで、仲のいいシリウス星人に頼んで、地球の恐竜図鑑を資料として持ち帰ってもらったってことなんだ。で、一時期恐竜に変身することが流行ってさ。みんなが大きな恐竜になって楽しんだのさ。
 でも、それは大きな失敗だったんだ。シリウス星人は、南極の氷の下にあった、冷凍保存の草食恐竜と肉食恐竜をカメレオーネに贈呈したんだ。確かアダムとイブっていう名前だったな。でも、図鑑と違って、そいつらの体の中には恐竜の脳味噌も冷凍保存されていたんだな。カメレオーネはそれを知らないで、全部入りで真似ちまったんだよ。
「で、変身の術は?」ってウニベルは心配そうに聞いた。
「脳味噌まで恐竜になっちまって、そんなことができるかい?」ってチッチョ。
「じゃあ、カメレオーネに戻れなかった?」
 ステラは大きなため息をついた。
「たぶん、カメレオーネは絶滅したんじゃないかしら。いえ、恐竜に進化したってことかしら」ってチッチョリーナ。
「絶滅したのさ。だってあれはカメレオーネじゃない。カメレオーネ語を話す怪物だ」


 ナオミ、ケントと先生は、その話を聞いてモーロクとエロニャンのことを考えたんだ。もともと彼らは同じ人間だったのに、流行病が流行ったおかげで、別れちまった。でも、モーロクもエロニャンも、恐竜よりはずっと大人しいことに気が付いたのさ。モーロクはケンカするけど、殴り合いなんかしたことないんだ。エロニャンはみんな仲良しさ。だからモーロクもエロニャンも、これから一緒にやっていこうって思ったんだ。だから、恐竜に変身しちまったカメレオーネが可哀そうでしょうがなかった。


「で、カメレオーネは一人もいないの?」ってナオミはチッチョに聞いたんだ。するとチッチョは首を振った。
「誰もが恐竜になろうなんて思わないさ。今でもずっとカメレオーネの姿の人たちはいるんだ。でも、山奥でひっそり暮らしてるのさ。彼らは、恐竜がやって来ると木や岩に変身して身を隠すんだ。そのままだと食べられちゃうからな。で、細々とだけど、生き残っているのさ」
「それはすばらしいことだわ!」ってステラは叫んだ。
「だけど、あの星に戻るべきじゃないわ」ってチッチョリーナ。
「どうして?」
「だって、あの星は何万年も戦場なんだよ。弱肉強食の世界なんだ。強い者がえばって、弱い者がおびえる世界なんだ。昔の地球のような星さ」ってチッチョ。
「でも僕たちは、死ぬまでに一度だけ、故郷の星を見てみたいんだ」
 ウニベルが言うと、チッチョリーナはポンと手を叩き、「いいアイデアがあるわ」って言った。
「あんたたちの分身を作るの。私は千一人のチッチョリーナの一人。いろんな星に行きたいなら、千人の分身を作ればいいわ」
「でも僕たちは故郷の星を見たいだけなんだ」
「今のカメレオーネがどんなことを考えているのか知りたいだけよ」ってステラ。
「だったら、分身は二人で十分ね。ウニベルの分身、ステラの分身。作成には数秒かかるわ」
 てなことで、さっそくチッチョリーナはウニベルとステラの頭に、アンテナの付いた帽子をかぶせた。この帽子は瞬間的に二人の考えや性格を全部コピーして、彼らが考えなくても自動的にアバターの行動を考えてくれるんだ。それで二本の角のようなアンテナからダークマター通信で、自分の考えたことを遠い星のアバターに瞬時に送ることができるのさ。


 するとジャクソンも、行ってみたいって言い出したんだ。
「だって、僕の祖先がどんな星に住んでいたのか知りたいもの」
 するとジャクソンの相棒のヒカリも、行きたいって言い出したのさ。そしたら、先生もナオミもケントもヒカリが心配で一緒に行くって言い出した。
「いったい、モーロクの子供たちを助ける話はどうなってるの?」ってアマラはヒカリに聞いた。するとヒカリは、「僕には子供たちを助ける方法があの星にあるような気がするんだ」って言うんだ。ヒカリは第六感がきっとあるとみんな思ってたから、アマラも納得したな。それで乗員全員のアバターを作ることになったんだ。


(つづく)


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