詩人 響月光のブログ

詩人響月光の詩と小説を紹介します。


神の道化師


疫病が猛威を振るって
人々は職を失い
路頭に迷っている
資本主義なんてシステムじゃ
金欠症は菌血症とは反対に
血中に黴菌も栄養も流れず
死に至る病になっちまう
嫌だね山口判事じゃあるまいし、…けれど
いったい一文無しになることは絶望か?
そいつは資本主義っていう狂ったシステムから染み出た
馬鹿な妄想に過ぎないだろうさ


資本主義の害毒は猫も杓子も金の亡者になることだ
ケネディーの父さんは大恐慌の直前に
靴磨きの少年が株を買い込む姿を見て暴落を確信し
株を全部売り払って生き残った
お札も株券も燃えりゃなくなるただの紙
時価総額がなんのかんのとかまびすしく
一喜一憂、踊る奴らはみんな博打打ちさ


江戸時代の長屋の連中を思い出せよ
ゲーテが見たナポリの下町を思い出せよ
貧乏人もコソ泥も、定職を持たず
みんなで助け合って生きていたんだ
親の支援で育った君たちが
なぜいろんな支援に頼らずに絶望し
公園で腹を空かせて、孤独に寝転がるんだろう
金を儲けることに価値を置かなければ
無一文が価値なきことにはならないんだ


社会が悪いと公言し
胸を張って掌を前に差し出し
施しを受けるがいい
資本主義のプライドなんて
お札と同じ紙くずなんだから…


自分の意思で無一文になった人間は幾らでもいる
一切の所有を拒否した人々がいるんだ
東洋にも西洋にもいる托鉢僧たちだ
聖フランチェスコは
裕福な父親の前で衣服を脱ぎ捨て
乞食坊主の道を歩んだ


その賛同者たちは
一切の所有を拒否するという
福音書の教えに習い
自らの意思で無一物となり
乞食坊主の仲間に加わった


今でもその末裔は
カプチーノ色したズタ袋を纏い
縄紐を腰に巻いて活動している


彼らが布教という使命感で物乞いするなら
君たちは欲望の資本主義をぶっ潰す使命感で
物乞いをすべきなのだ
自らの体験で新しい社会を創るという
新たなプライドを胸に秘め…



おごれるCOVIT


遠い遠い昔のある日に
この星の命は黴のようにして生まれ出た
星の息吹に順応して体つきを変えながら
いろんなベクトルに突き進んでグロテスクに変化し
戦い殺し合い食い合うようになった
強いものは弱いものを食いつくし
弱い者は強いものから食いつくされ
争い、犯し、支配しながら綿々と
未来へ向かって命を繋いでいった
永い永い間のある日に
すべての岩石の磁性とともに
彼らの方向性もあらかじめ定まっていた
究極の目標はこの星の支配者になること
あらゆる有機体はさまざまな切り口から
この究極目標に向かって走り出した
進化という口幅ったい言葉
ある日突然単細胞は多細胞に変異し
ある日突然多細胞は海の中で殻を持ち
殻から抜け出て陸に上がり
尻尾を生やして木に登り
尻尾を落として草原に降り
道具を使って局部を隠すようになった
恥らいの精神こそ高等への進化であると彼らは叫んだが
単細胞に留まる道を選択した連中はへへっとあざ笑った
がむしゃらに生きていれば恥らうことなどなにもない
顕微鏡の中を覗いてごらん
動き続け増え続ける我々に虚栄心などあるものか
ひたすらガツガツと増殖あるのみさ
さらに進化と支配とは別物である証拠に
この星を支配するのは変化する単細胞で
お前たちの数を制限するのも我々の仕事だと…
単純であることは高等で、複雑であることは下等だ
流されることは高等で、食いしばることは下等だ
単純は変化に即応し、複雑は変化に鈍応する
中途半端な知性ではこの星は支配できない難しささ
すなわち終わったのだよ お前たちの進化は打ち止めさ
進化を選択した生物はどいつも意気地なし
放物線の頂点を越えてしまって、あとは下降のみさ
変化・変容を選択した我々単細胞は環境に順応し
頂点に達することもなく綿々とこの星を支配している
さあ、さっさと滅びたまえ夢見るつわものたちよ
本気になれば一瞬のうちに滅ぼすこともできるのだ
我々はお前たちの痕跡すら消し去る術も知っているのだよ…













響月 光のファンタジー小説発売中
「マリリンピッグ」(幻冬舎)
定価(本体一一○○円+税)
電子書籍も発売中

×

非ログインユーザーとして返信する