詩人 響月光のブログ

詩人響月光の詩と小説を紹介します。

小説「恐るべき詐欺師たち」八 & 詩


万引家族


ある日孤高の父が生活費に困り
そうかといって借りる友もおらず
原始時代に戻ることを決心した


原始時代には
人々は狩猟生活を営み
命を繋いできた、と父は言う
それは動物という獲物の生活を壊し
彼らの幸せを奪うことである


しかし都会というコンクリートの中では
動物はペットの犬猫しかおらず
それらの肉は脂肪だらけで栄養に乏しく
食っても美味しいものではない


都会では金持という狩人たちが 
お札という手裏剣を四方八方投げつけながら
貧乏人という獲物を餌食にしているのだ


貧乏人はいろんなところを食われながら
何の武器も持てなかった非力な過去を振り返り
ヒグラシのようにカネカネカネと悲しく鳴きながら
その日暮らしの人生を終えるのだ


さあ息子どもよ、お前たちの武器はしなやかな十本の指
手品師が手の中でトランプを消すように
金持の店から手ごろな獲物をくすねてこい
原始人が動物たちの幸せを奪うみたいに
金持の幸せをほんの少し削り取ってくるのだ
鼻ペチャでも歯抜けでも
獲物を獲るのが良い子供だぞ


獅子の子が崖から落ちるように
僕たちは家から閉め出され
路頭に迷うことになった
そこに広がるのは白々しくも鬱蒼とした
都会という名のジャングルだった…


僕たちは父の恨みに背中を押され
一軒のスーパーに入っていった



怒り玉
(戦争レクイエムより)


博士は私の喉の奥から小さな玉を取り出して
これがあなたの怒り玉ですと説明した
そいつは黒い色して、鼻にツンとくるゴミだった
ゴミだなんて…、アデノウイルスの固まりですよ
しかし人類の生存には不可欠な代物です
お汁粉に塩を一つまみ入れ
香水にスカンク臭を一滴垂らすように
怒り玉もあなたの活力を際立たせてくれます
あなたに外圧がかかると
喉の奥の怒り玉がどんどん増えていきます
あなたはとても堪えられなくなって
怒声と一緒にそいつをまき散らすのです
すると周りの人々がそいつを吸い込んで
みんなみんな怒声を発するようになるのです
パンデミックです、怒りのパンデミックです!


あなたの怒りが、すべての人々の怒りとなり
国中が怒りに満たされることになります
国が怒ればたちまち戦争です
外圧の元を叩き潰しましょう
勝利です、敵を壊滅しました
あなたの怒り玉は生産を停止し
あなたは香り際立つ女性と腕を組み
汁粉屋の暖簾を潜ることになるのです
平和です しばしの平和が訪れたのです


あなたの祖先も、その先の猿も、そのまた先の魚も
こうやって人類の血を繋げてきました
ほかの生き物たちも
こうやって絶滅から免れてきたのです
怒り玉は、地球の生態系に不可欠な存在です
それは泥沼から飛び出て寄宿するのです
ひとたび感染爆発すると
強きものが生き残り、弱きものは滅びるのです


強きものは永久に不滅です!
あなたも私も、子々孫々不滅です!







小説「恐るべき詐欺師たち」八


 企画からひと月後の進捗状況報告会では、チエが最初に壇上に上がり、ターゲットの資産を推定百億円と発表すると万雷の拍手がわき起こった。
「プロジェクトもほぼ終盤で、あとは、最後の仕上げのみが残されています」とチエが言うと、「それはどんなことですか?」と質問が上がる。
「仕上げは財団の理事長が替わることです」
「老人が死ぬことですか?」
「それは神のご意志によります。すでに全財産は私たちのものです。私は神の指令に従うだけですから」と言って、チエは発表を終えた。


 次はユキ、トメ、メリの肉弾三人娘による「三人の主人を一度に持つと」作戦の進捗状況が発表された。これもけっこう進捗しているようで、ユキはすでに三人の老人と交際していて愛人関係を持った。あとは婚姻届を出して戸籍に入る作業ということになるが、すでに二人とは婚姻届を役場に提出している。しかしこれは重婚ではない。二人のうちの一人は妻のユキの名前がトメだと思っているし、もう一人はメリだと思っている。もうすぐ婚姻届を提出する最後の一人はユキと本当に結婚することになるわけだ。必要とされる二人の証人は、トメが入籍する場合はユキとメリがなり、メリが入籍する場合はユキとトメがなり、ユキが入籍する場合はトメとメリがなる。しかし、三人の老人はすべてユキが妻だと思っているというややっこしい三重婚であるが、さらにややこしくなっているのは、留守がちのユキの代わりにトメやメリがフィアンセの世話をしている最中に、二人とも襲われて関係を持ってしまったことである。


 三人の老人はいずれも好色で選り好みもなく、枯れても男だから女とひとつ屋根の下にいればこうなるのは自然の流れかも知れなかったが、男嫌いのトメとメリは苦渋に耐え、おかげでカオスというよりは相手の弱みを握る意味では思うつぼになったと言うべきだろう。婚姻届を出した後の老人たちは、妻に浮気がバレるのを恐がって大人しくなり、御しやすくなったという。しかし三人の資産を合わせても二十億円に届かないことをユキは恥ずかしそうに発表したが誰もブーイングを発しなかったのは、あと二つのプロジェクトが暗礁に乗り上げている可能性を示していた。残りのグループはひどく大人しく、体を小さくして聞いていたからだ。


 案の定、プロジェクト「世界叙勲者友好学会」グループは思うように会員が集っていないようで、由男は伏目がちに経過報告した。
「まずホームページを立ち上げ、元参議院議員の先生を初代会長に迎え、DMや電話勧誘をメインに盛んに勧誘活動を行いましたが、現在のところ会員数は四十人に満たないのが実情です。まだ立ち上げてから一カ月も経っておりませんので妥当な数だとは思いますが、来春のタヒチクルーズに向けて五百組分の船室を予約した関係上、いささか焦っております。現地では、適当な王族が見つからなかったため、男女の俳優を王族のカップルに仕立て上げ、レジョン・ド・ポレポレ勲章を授与していただきます。また、いろんな人種の俳優を雇いまして、世界中から叙勲者が集ったというような雰囲気にいたします。しかし、いかんせん参加者が集らないのが課題でして、その原因を分析いたしました」と言って、由男はホワイトボードにパワーポイントを映した。


会員が集らない理由
① 病気がちの高齢者が多く、長期間の長旅が心配だ
② 会費プラス参加費用が高額だ
③ 階級が低いので恥ずかしい


「現段階は段取りにおけるプラン、ドゥー、チェック、アクションのチェック段階でして、分析の結果、大きく三つの原因を上げることができました。この原因さえクリアできれば、会員数もどんどん増えていくと思います。それには二つの方法があります。一つは、三つの課題を一つ一つ解決すること。例えば①については宣伝ツールの記載や勧誘において、クルーズ船の医療体制および現地での医療体制がいかに充実しているものかをアピールする。船内の手術室や透析室、緊急用ヘリポートなども紹介します。これは簡単なことでしょう。しかし②については、各人の懐具合ということになりましょうが、要するに大金を払うに見合う企画かということだと思います。つまり、多少高くても参加したいという気にさせなければならないので、少し難しくなりました。③につきましては、幕下から横綱まで同舟ということですから、階級の異なる叙勲者を一堂に会することの難しさは最初から危惧しておりました。というのも、叙勲者どうしが集れば自ずと何等かという話になっちまうわけでして、ここでひがみや嫉みが発生いたします。これを解決するには、自分の階級については一切公言しないという規約をつくる以外にはございません。正直にその理由を話せば、皆さん分かっていることですからご理解いただけるでしょう」


「自慢したがりの方たちがそんなルール守るかしらね。だいいちパーティーのときに勲章を付けたがるでしょう」とチエが声を上げた。由男はチキショウという顔つきでチエを一瞥し「だから、トータルでちゃんと解決しますから」と言って画面を替えた。そこには「金」と一文字大きく書かれている。
「つまり、個別の課題を解決していくのも大事ですが、どんな課題も吹飛ばしてしまうようなニンジンが必要なのです。馬の前にぶら下げるニンジンです。それが『金』。金メダルじゃありません、カネです。人間、死ぬまで金が欲しい。特に年取れば年取るほど欲深になる。それは、金のある老人と金のない老人じゃ、家族の対応すら変わってくることを身を持って感じているからです。老人を見れば金に飢えていると思いましょう。で、この学会の目的を『叙勲年金制度の設立』に一元化します。老齢年金に加え叙勲者には叙勲年金の上乗せがあるという制度です。この立法案を会長の愛弟子の衆議院議員が提出していますという設定で、これを通すのにはあなたたちの力が必要ですとダマくらかします」
「年金問題で国中が怒ってるのに、新しい年金だなんてバカげているわ」とユキ。
「だからまあ理由を聞いてください」と声を荒らげ、由男は顔を真赤にさせる。
「年金問題も経済問題も、国民の活力の低下にあるんです。年金問題を解決するには日本の経済をなんとしても上向きにしなければならない。しかし、いまの若者は働く気力を失っているんだ。将来の希望がなければ意力も出てこない。お国のために頑張ろうなんて、誰も思っていない。しかし、会社にだって報奨制度があるでしょう。何のためにあるのか。社員を鼓舞するためにあるんです。それだったら国だってつくるべきだ。国民を鼓舞する制度とは何か。それが叙勲年金なのです。一生懸命頑張れば会社の社長になって勲章がもらえ、おまけに年金もアップする。かつての高度成長時代を復活するには叙勲年金で国民を鼓舞する以外にないと主張すれば、ようし俺も人肌脱ごうという叙勲者は多いはずです。レジョン・ド・ポレポレ勲章は叙勲年金制度の確立に寄与した会員に与える栄誉なのです」と由男は力説した。


 するといままで一度も口を挟まなかったシャマンが心配そうな声で質問した。
「それは分かりましたが、参加する会員が集らなかった場合、来春のクルーズ船のキャンセル料は誰が払うのですか?」
 痛いところを突かれた由男はしばらく言葉も出せなかったが、もごもごとしながら「いいえ九九パーセント、キャンセルはないものと確信しています。仮に残る一パーセントが当たった場合は、夜逃げか雲隠れ以外にはありません」とつぶやくように言った。
「安心しましたわ。神は一切あなたたちに委ねているのですから、自己完結が原則です。赤字が出た場合は、当局は一切関知いたしません」とシャマンが言ったので、会場からわらいがわき上がった。



 シメは敬老温泉療法研究会グループの発表で、こちらは定員百人がすでに集り、一回目の治療試験が三日後に迫っているという段階で、順調に進んでいる。しかし、会場から由男が「一回やっていくら儲かるの?」という質問をしたので、発表者の太郎はたちまち顔を赤くさせ、額に脂汗がたれる。
「上手くいけば、百人全員が薬の一年契約を結んで六十万×百人で六千万。ほかの健康グッズも売れればプラス五百万で、合わせて六千五百万といったところです」
「しかし、百人全員が契約するはずはない」と必死になって由男が反論する。
「だから、これは長期的なプログラムなんですよ。コツさえ掴めば月に一回は治験を実施する。仮に全員が契約するとすれば、年に七億八千万円の儲けになります。十年続けば七十八億円」
「十年も続くわけないでしょ。獲らぬタヌキのなんとやらさ」と言って由男はわらった。
「沈没寸前のクルーズ旅行よりはマシでしょ」と太郎も壇上から応戦して険悪な状況になったので、シャマンが割って入った。


「みなさん。今回は初めてのことですので、神も収入だとか成功・失敗だとかは問うておりません。神が求めておられるのは神の兵士としての忠誠心と誠意です。誠意さえあれば、懸命に努力します。努力して失敗するならそれは許されます。また、儲けの額なども大した問題ではありません。大事なことは、命を賭けて頑張ることです。突き進むことです。ここで、チエさんはしばらくの間お手すきになりましたので、太郎さんのグループで一時的に働いていただきます。対等の立場で太郎さんのサポートをお願いしますね」というわけで、チエはニセ薬販売グループにレンタルされることになった。


(つづく)






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